わが国周辺の安全保障環境はかつてない速度で厳しさを増している。2022年(令和4)、その状況は加速するだろう。中国の急激な軍拡や力を背景とした一方的な現状変更、1月5日に弾道ミサイルとみられる飛翔体を発射させたほか、新たなミサイル技術の開発を続ける北朝鮮、周辺空海域で活発な動きを見せるロシア…。これら周辺諸国などの脅威に立ち向かうため、そして、日本を護(まも)るため、岸田文雄首相は1月1日の年頭所感で、「国民の命と暮らしを断固として守り抜く」などと、改めてさらなる防衛への強い思いを示した。新年企画「決意から実行へ―日本を護る」では、安全保障をめぐる昨年後半の一連の動きを検証し、その流れを受けて今年、大きな節目を迎え、本格化する3つの戦略を考える。

加速会議 現実的な議論へ

 「世界のパワーバランスの変化、わが国周辺における軍備増強の加速など、わが国を取り巻く安全保障環境は一層厳しさを増している。あらゆる選択肢を排除せず、冷静かつ現実的な議論をしっかり突き詰めていくことが重要だ」

 昨年11月12日、岸田文雄首相が目指す「国家安全保障戦略」などの改定に向けて議論する防衛省の「防衛力強化加速会議」の初会合で、岸信夫防衛大臣はそう強調した。

 会議には、副大臣、大臣政務官、事務次官、自衛隊の各幕僚長らが集まった。わが国の防衛を担う防衛省・自衛隊のまさに「最高幹部会議」のスタートだった。

 同26日の第2回会議では、同日閣議決定された令和3年度補正予算案について議論した。補正案と4年度当初案とをセットで考える「防衛力強化パッケージ」と位置付けられており、「わが国防衛の国家意思を示す意味でも大きな指標」(防衛省)を会議で考えた。さらに、12月15日と24日の第3、4回会議では国際情勢などについて議論。国民の命と暮らしを守るために何が求められているのかなどを話し合った。

 会議は、日本を攻撃しようとする相手の領域内でミサイルの発射を阻止する、いわゆる「敵基地攻撃能力」の保有を含めて議論する場でもあるとされる。岸田首相が検討を指示したことを受けて発足した会議だが、そこにあるのは「防衛力強化」にほかならない。

日米首脳会議 内外に決意示す

 「防衛力強化」を目指すことは、今に始まったことではない。保守の政治家たちが唱え続け、防衛省は防衛関係費などの予算措置や「防衛白書」への記載を続けている。同省のシンクタンクである防衛研究所も、毎年のレポートで同様の発言を繰り返している。周辺諸国の安全保障環境の激変に比例するように、その文言はとてつもなく大きなものになっていった。

 その一つのきっかけをつくり、防衛力強化への強い決意を内外に示したのは、昨年4月16日、米国で行われた日米首脳会談ではなかったか。

 外務省によると、首脳会談で意見交換した菅義偉首相(当時)は、米国のバイデン大統領との間で、日米同盟の抑止力などを強化することで一致した。そして、菅首相が日米同盟や地域の安全保障を一層強化するため、「(日本が)自らの防衛力を強化する」との決意を述べ、このことが共同声明にも盛り込まれた。

 防衛力強化。最大の同盟国に対し、「約束」したこの言葉こそ、実行へ向けた決意ともなった。以来、言葉は連鎖し続けた。令和4年の実行へ大きな節目ともなった。

 岸大臣も共同声明に盛り込まれた「防衛力強化」について早速、4月20日の会見で「宇宙やサイバーなどすべての領域で防衛力を強化し、日米同盟での日本の役割を拡大していく」との考えを示した。

写真:外務省HPより

自衛隊最高指揮官 抜本的強化への思い

 さらに拍車をかけたのは、岸田首相の強い思いだ。

 昨年10月8日の「第205回国会」の所信表明で、安全保障について「わが国の領土、領海、領空、そして国民の生命と財産を断固として守り抜く」とし、国家安全保障戦略、防衛大綱、中期防衛力整備計画の「安保3文書」の改定に取り組むことを明言した。

 その上で、これらのため、として首相が言及したのは「海上保安能力やさらなる効果的措置を含むミサイル防衛能力などの『防衛力の強化』」だった。

 衆議院選挙(同10月31日)後の12月6日の「第207回国会」でも同様に、「スピード感を持って防衛力を抜本的に強化していく」と繰り返し、11月27日、朝霞駐で開かれた自衛隊観閲式に自衛隊最高指揮官として出席した際も、「必要な防衛力を強化していく」と強調した。

 首相はまた、1月1日の年頭所感でも、安全保障と一体の外交面と合わせて「巧みな舵(かじ)取りが求められている」と言及。その上で、「国民の命と暮らしを断固として守り抜く取り組み」を「新時代リアリズム外交」の三本柱の一つとして推し進めると強調した。

写真:首相官邸HPより

自民党 総選挙で発信

 12月24日に閣議決定された令和4年度の当初予算は、3年度補正と一体となった「防衛力強化加速パッケージ」と位置づけて編成された。その名目通り、新領域や総合ミサイル防空能力、スタンド・オフ防衛能力などの変化への対応に必要な防衛力を大幅に強化する「多次元統合防衛力の構築」を強調した。すべては、防衛力強化につながるものだ。

 「令和4年度から防衛力を大幅に強化する」。政府と一体となって自民党も動いた。衆院選の公約の一つに「『国防力』の強化で日本を守る」というメッセージを発信した。

 12月20日には、安全保障調査会(会長・小野寺五典元防衛相)の会合で、今年末に政府が改定する方針を打ち出している安保3文書について、5月にも政府への提言を取りまとめる意向を示した。

 岸大臣は衆院選直後の11月2日の会見で「日本が置かれている安全保障環境の状況では、一刻の猶予もないのではないか」と述べていた。

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 防衛力強化、安保3文書の改定、新領域への対応…。かつてない危機感を持ちながら、日本を護るため防衛力の抜本的な強化を目指す令和4年。日本は大きな節目を迎えた。それは、防衛省・自衛隊にとって重要で重大な「オペレーション」に取り組む覚悟の1年の始まりでもある。

防衛力強化加速会議

 議長は防衛大臣。副大臣が議長代理、大臣政務官が副議長を務める。委員は事務次官、防衛審議官、大臣官房長、各局長、各幕僚長、情報本部長、防衛装備庁長官ら。

【2022年1月6日(木)1面から】


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