小野寺五典防衛大臣は8月28日の閣議で、平成30年版「防衛白書」を報告し了承された。白書は、日本を取り巻く安全保障環境について、周辺国などによる軍事力の近代化・強化や活動の活発化が顕著に見られると指摘。北朝鮮の核・ミサイル開発の動きは「これまでにない重大かつ差し迫った脅威」と明記した上で、米朝首脳会談後の現在でも「脅威の認識に変化はない」と明記した。小野寺大臣は白書の前書きに、「防衛省・自衛隊が使命を全うしていくため、我が国自身の防衛力を強化し、自らが果たしうる役割の拡大を図る必要がある。本年末を目指し防衛大綱の見直しや次期中期防整備計画を進めている」との文章を寄せた。
白書は北朝鮮について「日本の安全に対するこれまでにない重大かつ差し迫った脅威であり、地域及び国際社会の平和と安全を著しく損なうもの」と明記した。今年6月に行われた史上初となる米朝首脳会談の共同声明について、「金正恩委員長が朝鮮半島の完全な非核化に向けた意思を、改めて文書の形で明確に約束した意義は大きい」と評価をしたが、「核・ミサイルの脅威に変化はない」と強調。核兵器に関しては「昨年9月の6回目となる核実験は、水爆実験であった可能性も否定できず、既に核兵器を弾道ミサイルに搭載するための小型化・弾頭化の実現に至っている可能性がある」とした上で、弾道ミサイルについて、(1)長射程化(2)飽和攻撃のために必要な正確性や運用能力の向上(3)奇襲的な攻撃能力の向上(4)発射形態の多様化―の4つを企図しているとみられると指摘。北朝鮮が米国に対する戦略的抑止力を確保したと過信・誤認した場合、軍事的挑発行為の増加・重大化につながる可能性があると懸念を示した。
日本の弾道ミサイル防衛整備・運用のイメージ図
中国に関しては国防費の高い水準での増加を背景に、核・ミサイル戦力や海上・航空戦力を中心とした軍事力を急速に強化し、その一環で「A2/AD」(接近阻止・領域拒否)能力を高めていると指摘した。また電子戦・サイバー分野など、新たな形での実践的な運用能力の進展を企図していると分析。さらに独自の主張に基づき尖閣諸島周辺を含めてその活動範囲を一層拡大していると明記し、「習近平氏による権限のより一層の掌握を背景に、軍近代化の動きは今後ともさらに加速する可能性がある」と指摘した上で、「急速な軍事力近代化や運用能力の向上、我が国周辺での活動の一方的なエスカレーション、力を背景とした現状変更の試みなど、我が国を含む地域・国際社会の安全保障上の強い懸念である」と強調した。
ロシアについては択捉、国後両島への地対艦ミサイル配備を公表したほか、択捉島の民間空港の軍事共用化など北方領土での活動を活発化させており、「動向を注視していく必要がある」と指摘した。
白書は、今年度が現行の防衛計画大綱と中期防衛力整備計画の最終年度となるため、大綱見直しについて触れ、防衛力の「質」と「量」を必要かつ十分に確保することが不可欠とした。宇宙空間やサイバー空間など、新たな領域における能力向上に本格的に取り組んでいく必要があることや、陸上配備型イージス・システム(イージス・アショア)やスタンド・オフ・ミサイルの導入、F35Aの取得などの防衛力整備の取り組みについても記述した。
また巻頭でAR(拡張現実)技術を活用した「防衛省AR」を紹介。スマートフォンなどを使い、隊員や装備品の「動き」を動画で閲覧することができるようにした。
◆関連リンク
防衛省・防衛白書
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