報告書「中国安全保障レポート2026」公表

中露朝の協力動向、安保への影響分析

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防衛研究所ホームページより

防衛日報 2025年12月5日付


 防衛省のシンクタンクである防衛研究所は11月20日、中国の戦略や安全保障などをめぐる動向を調査・研究した報告書「中国安全保障レポート2026」を公表した。16回目となる今回は、中国とロシア、北朝鮮との協力動向を研究し、中露の合同演習の常態化や露朝接近が地域の安全保障に及ぼす影響を多角的に分析。

 

 軍事演習や貿易を通じた協力が進む一方で、三者の戦略的思惑には相違がみられ、「不均衡なパートナーシップ」が形成されつつあると結論づけた。報告書は全文をウェブ上に公開した。

→中国安全保障レポート


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中露「戦略的協力」

 報告書はまず、中国の外交姿勢について、(1)発展途上国・新興国に向けた関係拡大(2)台湾や南シナ海をめぐる安全保障上の懸念に対応する姿勢―の2つのストーリーが併存していると指摘。

 その上で、米国の同盟戦略に抗する形で、中国とロシアの「戦略的協力」、特に両軍関係(軍事分野での協力)での協力が進んでいると整理した。

 軍事面では、両国海軍による合同演習「海上聯合」が地中海や南シナ海、日本海、東シナ海など複数の海域で実施され、潜水艦救難、掃海、対空ミサイル、指揮通信統合など訓練内容も多様化している。共同パトロールも行われるなど、活動の常態化も指摘した。

 一方で、ロシアがウクライナで軍事行動を続ける中、中国はロシアの軍事目標に直接資する協力からは距離を置こうとする姿勢を示していると分析した。

 米国の「覇権主義」への反対という原則では一致するものの、国際規範への姿勢や外交手段の選択では隔たりが残るとした。中国が多様な政策手段を用いて戦略的バランスの維持を図るのに対し、ロシアは軍事的手段に依存する傾向がみられる点も明らかになったとしている。


ロシア

 ロシアについて報告書は、ウクライナ侵略を長期にわたり継続する中、制裁によって資金や物資の調達が制約される「準非常事態」にあると位置付けた。国内の安定を維持しつつ軍需生産や兵力供給を増やすため、非西側諸国との貿易や外交関係を広げる動きがみられるとする。

 軍事作戦に不可欠な砲弾や弾道ミサイル、兵力を北朝鮮から調達する動きが顕著になり、見返りとして軍事技術や政治的支援を提供している可能性があると指摘。露朝関係の緊密化が急速に進んでいると分析した。

 また、ロシアは国連安保理制裁の履行を弱め、北朝鮮との軍事協力を拡大。2023年には国営テレビでベラルーシへの戦術核兵器配備の方針を公にし、その後、移転が進んでいるとされる。こうした核関連措置は、エスカレーション抑止を意図した〝恐怖カード〟として作用し、西側諸国の支援判断を慎重にさせる要因になっているとした。

 さらに、これらの行動は中国を含む友好国の懸念を必ずしも顧慮したものではなく、国際秩序や地域安定に新たな不確実性を生む要因と分析した。


北朝鮮

 北朝鮮について報告書は、大国間の力学が交錯する中で、体制維持を最優先に生存戦略を模索してきたと整理した。外部の圧力に左右されにくい立場を掲げ、核・ミサイル開発を通じて対米抑止力を強化してきたとみる。

 中国との関係では、最大の貿易相手国として経済依存が続く一方、政治・外交面での中国の役割は必ずしも大きくなく、米朝関係の動向に左右される側面が強いと分析した。

 ロシアとの関係は、ウクライナ戦争を契機に急速に接近。北朝鮮がロシアを明確に支持し、砲弾などの武器供与や派兵に踏み切ったとされる一方、ロシアからは軍事技術支援やエネルギー面の協力を受けている可能性があるとした。

 長期的には、北朝鮮が「核保有国」としての立場をロシアに後押しされることを期待しているとの見方も示し、事実上の同盟に近い状況へ傾いていると分析した。

 こうした北朝鮮の動きについて報告書は、大国間の間合いを取りながら体制維持に有利な選択肢を広げ、利益の最大化を図っていると総括。一方で、朝鮮半島有事の抑止の在り方では、北朝鮮とロシアの間に認識のずれがある可能性にも触れた。中国とロシアとの関係を調整しながら立ち回る北朝鮮の姿勢が、今後の地域情勢に不確実性をもたらすとした。


中露朝ダイナミズム

 報告書は、中露朝の3者関係について、3国で組織化された協力体制は成立していないと整理する一方、それぞれの2国間協力が地域情勢に影響を与えていると指摘した。

 インド太平洋では、中国とロシアが米国の同盟戦略に対抗する形で軍事演習や海上・上空での合同パトロールを進めており、中国の作戦能力の向上に寄与しているとみている。

 他方、ロシアと北朝鮮の急接近は、北朝鮮の核・ミサイル能力の増強につながる可能性があり、中国にとって北東アジアの戦略的バランスを悪化させかねない要因とした。中露間や中朝間では、軍事行動や地域安定に対する考え方が一致していない面もあり、協力の在り方には不均衡が残ると分析。3者の動きが複雑に重なることで地域の不確実性を高める要因になるとして、警戒感を示した。