次期飛行班長の川島良介3空佐が山に囲まれた防府航空祭でデビュー

 令和5年(2023年)6月4日(日)、山口県防府市の航空自衛隊防府北基地で「防府航空祭~幸せます防府北~」が開催された。
 築城基地からの発着で飛来して展示飛行を行う「リモート展示」を行ったブルーインパルスは、美保基地航空祭直前にOR(Operation Readiness=曲技飛行操縦士)となった次期飛行班長の川島良介3空佐を1番機・編隊長に投入し、間髪を入れずのアクロデビューを果たした。

 空自航空学生の故郷である防府北基地は、防府平野の真ん中で周囲の山に囲まれており、風光明媚な風景の中で展示飛行が見られる。どの会場でブルーインパルスを見るのが一番好きですか?と聞かれれば、迷わず「防府北」と答える。だが、この山の存在のために、パイロットは防府特有の飛行諸元で飛ばなければならず、パイロット泣かせの展示飛行だ。そこに川島3空佐のデビューを当てたところにブルーインパルスの本気度が見られる。

画像: 会場後方よりワイド隊形で現れたブルーインパルス。ワイド・ローパスかと思いきや…(写真・今村義幸)

会場後方よりワイド隊形で現れたブルーインパルス。ワイド・ローパスかと思いきや…(写真・今村義幸)

それはワイド・トゥ・デルタ・ループで始まった!

 開始から度肝を抜かれた。後方からのワイド・ローパスで入ってきたと思いきや、それは展示飛行中盤で見られるワイド・トゥ・デルタ・ループだったのだ。筆者は前日、隣の敷地にある防府南基地開庁記念行事より予行を見た。防府北基地HPより予行日時が予告されていたが、防府南基地開庁記念行事の会場ではナレーションも流され、他の展示とは重ならないように配慮されていた。
 予行では防府北基地に対して後方から6機のやや幅広のデルタ隊形で入ってきている。当日は5機傘型のワイド・ローパスで、まず5機で入ってきたことも見落としていたのだが、ワイド・トゥ・デルタ・ループの上昇機動が始まった時にはかなりの衝撃を受けた。
 予行では後方からの6機デルタ・ローパスで開始し、2課目目には右(東)から滑走路に沿ってフェニックス・ローパスを実施した。これは当日の開始2課目を替えて地形慣熟飛行を行ったのだと後から気付いた。

画像: 前日の予行ではデルタ・ローパスでの開始だった。防府南基地開庁記念行事会場より撮影(写真・今村義幸)

前日の予行ではデルタ・ローパスでの開始だった。防府南基地開庁記念行事会場より撮影(写真・今村義幸)

 過去の課目構成を詮索してみたが、平成30年(2018年)もワイド・トゥ・デルタ・ループから開始されていた。また昨年の防府航空祭も、予行はデルタ・ローパスで後方から入り、当日は後方からの5機ワイド・ローパスで入ってきていた。昨年は小雨の中に展示飛行が始まり1区分ができる条件ではなかった。もし快晴ならワイド・トゥ・デルタ・ループで開始していたかもしれない。

画像: ワイドから密集隊形へと隊形変換しながらループするワイド・トゥ・デルタ・ループ(写真・伊藤宜由)

ワイドから密集隊形へと隊形変換しながらループするワイド・トゥ・デルタ・ループ(写真・伊藤宜由)

 ワイド・トゥ・デルタ・ループはT-4ブルーインパルスの創隊時を象徴するような課目だ。当初5機傘型ワイド隊形でループするワイド・ループの開発が試みられたが、幅の広いワイドで隊形を保持しながらループすることが難しく、上昇しながら間隔を狭めるワイド・トゥ・デルタ・ループが生み出されたのだ。結果として5機がより高くより遠くへ上昇していくような見栄えがもたらされ、T-4ブルーインパルスのスローガンである“Challenge for the Creation(創造への挑戦)”を体現した課目となった。

防府は鬼門⁈編隊長には難しい山間アクロ

画像: 西側の山を回ってボントン・ロールの進入を開始するブルーインパルス(写真・今村義幸)

西側の山を回ってボントン・ロールの進入を開始するブルーインパルス(写真・今村義幸)

 防府航空祭と静浜基地航空祭は、リモート展示で曲技飛行が見られる稀有な存在だ。今年は防府航空祭に参加となった。第11飛行隊(T-4ブルーインパルス)第6代飛行班長でありブルーインパルスファンネット名誉管理人である吉田信也元2空佐は、Facebookの人気コラム【説明しよう!】で防府北の難しさについて下記のように解説している。川島3空佐はデビューからこの難しい「山間アクロ」とも言える展示飛行を1区分で披露した。 

 丁度経路上、展示正面に約400mの山、真後ろに約250mの山があるためプロシージャーターンの高度は、通常500mのところを、いつもより高く750mのパターンに設定しており(航空法の規定厳守!)、正面からの課目開始高度もいつもより300m高く行っています。(ちなみに正面の山の頂上には、毎回ブルーの通過のたびに日の丸を振ってくれる方もいました)(笑)
 ところが、横方向からの進入はいつも通りパターン500mで課目開始高度は100mのため、進入時の高度処理が非常に難しくなります。静浜と同じく1&5番機にとっては「鬼門!??)」とも言える場所なのです。

防府航空祭2023ブルーインパルス・ハイライト

 防府航空祭では離着陸は見られないものの、築城基地からのリモート展示で最上位の1区分が実施された。地形や燃料との兼ね合いから調整された「防府スペシャル」では、美保では見られなかった課目も組み入れられ、変幻自在なブルーインパルスの展示飛行が新編隊長のもとで披露された。

防府2023スペシャル課目構成
①ワイド・トゥ・デルタ・ループ
②4ポイント・ロール
③チェンジ・オーバー・ターン
④インバーテッド&コンティニュアス・ロール
⑤サンライズ
⑥バーティカル・クライム・ロール
⑦スロー・ロール
⑧チェンジ・オーバー・ループ
⑨バック・トゥ・バック
⑩レター8
⑪オポジット・コンティニュアス・ロール
⑫4シップ・インバート
⑬バーティカル・キューピッド
⑭360°&ループ
⑮フェニックス・ループ
⑯ボントン・ロール
⑰スター・クロス
⑱タック・クロスⅠ
⑲ローリング・コンバット・ピッチ
⑳コーク・スクリュー
(㉑ローパス(各機ソロ))
築城基地よりのリモート展示

画像: 6番機加藤1空尉はデビュー2展示目のスロー・ロール(写真・伊藤宜由)

6番機加藤1空尉はデビュー2展示目のスロー・ロール(写真・伊藤宜由)

画像: 5番機、6番機によるブルーインパルス創隊50周年記念課目バック・トゥ・バック(写真・伊藤宜由)

5番機、6番機によるブルーインパルス創隊50周年記念課目バック・トゥ・バック(写真・伊藤宜由)

画像: 美保では含まれなかったレター8も披露された(写真・伊藤宜由)

美保では含まれなかったレター8も披露された(写真・伊藤宜由)

画像: 5番機、6番機が対進交差しこの後3回転エルロン・ロールするオポジット・コンティニュアス・ロール(写真・今村義幸)

5番機、6番機が対進交差しこの後3回転エルロン・ロールするオポジット・コンティニュアス・ロール(写真・今村義幸)

画像: 美保に続き防府でもフェニックス・ループが実施された!(写真・伊藤宜由)

美保に続き防府でもフェニックス・ループが実施された!(写真・伊藤宜由)

画像: ボントン・ロールでも息のぴったり合った6機のブルーインパルス(写真・伊藤宜由)

ボントン・ロールでも息のぴったり合った6機のブルーインパルス(写真・伊藤宜由)

画像: ブルーインパルスの代表的描き物である星を描くスター・クロス(写真・今村義幸)

ブルーインパルスの代表的描き物である星を描くスター・クロス(写真・今村義幸)

リモート展示でのお楽しみはバイバイ・ローパス

画像: リモート展示でのお楽しみバイバイ・ローパスを見送る一日基地司令の河口温美さん(手前左)(写真・今村義幸)

リモート展示でのお楽しみバイバイ・ローパスを見送る一日基地司令の河口温美さん(手前左)(写真・今村義幸)

 リモート展示の見どころにフルショーでは見られない「バイバイ・ローパス」がある。曲技飛行の最後の課目が終わった後、リモート母基地に帰投する前に、各機が順番に会場前をローパスし挨拶する。ウィングロックという主翼を振って飛び去ったり、急上昇を見せたり、各機が思いのままに挨拶するこのバイバイ・ローパスが今年の防府航空祭でも実施された(課目構成や気象条件などにより実施されないこともある)。一日基地司令に任命された“ほうふ幸せますコンシェルジュ”の河口温美さんも手を振ってバイバイ・ローパスするブルーインパルスを見送っていた。

前途洋々のブルーインパルス

画像: 募集対象者エリアで子供連れ家族と交流するブルーインパルスの佐藤1空尉(写真・伊藤宜由)

募集対象者エリアで子供連れ家族と交流するブルーインパルスの佐藤1空尉(写真・伊藤宜由)

 「募集対象者エリア」としてエプロン地区前列エリアを子供連れ家族の見学場所とした他、来基したブルーインパルス地上メンバーとの交流会も行われた。大変素晴らしいアイデアで今後の航空祭でもこうしたエリア化を推進してほしい。

 創隊当時、より良いものをチームで創り上げる精神で開発されたワイド・トゥ・デルタ・ループで、これからブルーインパルスをリードしていく川島3空佐の展示飛行がスタートした。幸先の良い新時代を予感させるデビューだ。
 今後のツアースケジュールは、令和5年6月17(土)東北絆まつり2023青森、7月14日(金)世界水泳選手権2023福岡大会、7月21日(金)宮城県松島町「日本三景の日」記念行事、7月30日(日)千歳のまちの航空祭、と続く。
 東北絆まつりは青森県出身の名久井隊長の凱旋飛行として期待される。千歳は北海道出身の川島3空佐の凱旋飛行として期待される。ブルーインパルスの前途は洋々だ。

《防府航空祭2023曲技飛行搭乗メンバー》

1番機 川島良介3空佐、後席・名久井朋之2空佐(飛行隊長)
2番機 東島公佑1空尉
3番機 藏元文弥1空尉
4番機 手島孝1空尉
5番機 江口健1空尉、後席・藤井正和3空佐
6番機 加藤拓也1空尉

《防府北基地来基地上メンバー》

地上統制官 平川通3空佐(飛行班長)
ナレーター 佐藤裕介1空尉
サポート  横澤弘恭3空曹(飛行管理員)、盛内駿3空曹(整備員)

画像: 防府北基地に来基した地上メンバー。左から、横澤弘恭3空曹、盛内駿3空曹、佐藤裕介1空尉、平川通3空佐(写真・今村義幸)

防府北基地に来基した地上メンバー。左から、横澤弘恭3空曹、盛内駿3空曹、佐藤裕介1空尉、平川通3空佐(写真・今村義幸)

家族連れも飽きさせない多彩な「幸せます防府北」

画像: オープニング飛行を終えてタクシーバックするT-7初等練習機の記念塗装機(写真・今村義幸)

オープニング飛行を終えてタクシーバックするT-7初等練習機の記念塗装機(写真・今村義幸)

 防府北基地所属T-7初等練習機と陸自UH-1のオープニング飛行に続いては、第78期航空学生が、前週の美保基地航空祭、前日の防府南開庁記念行事に続き、ファンシードリルを展示した。

画像: 第78期航空学生によるファンシードリル展示。防府南基地開庁記念行事にて撮影(写真・今村義幸)

第78期航空学生によるファンシードリル展示。防府南基地開庁記念行事にて撮影(写真・今村義幸)

画像: 警備犬訓練展示にはたくさんの家族連れが集まり笑いも交えての楽しい展示で盛況だった(写真・今村義幸)

警備犬訓練展示にはたくさんの家族連れが集まり笑いも交えての楽しい展示で盛況だった(写真・今村義幸)

 その他、西部航空音楽隊演奏会、お天気教室、ランウェイウォーク、自衛隊トラック体験搭乗、消防体験、管制塔展望室観覧、航空学生顕彰館一般公開、警備犬訓練展示、陸自戦車体験搭乗など、子供から家族連れまで飽きさせない配慮された展示構成で全体が運営されていた。

画像: 陸自74式戦車体験搭乗(写真・伊藤宜由)

陸自74式戦車体験搭乗(写真・伊藤宜由)

 航空学生出身操縦者を中心とするT-7、UH-60J、U-125A、T-4の観閲飛行形式の航過飛行や、F-2Aの機動飛行、F-15DJの編隊飛行の他、陸自AH-1Sの訓練飛行や米空軍F-16の曲技飛行など、見ごたえ十分の展示飛行が披露された。

画像: 観閲飛行形式の航過飛行では芦屋基地からレッドドルフィンも参加(写真・今村義幸)

観閲飛行形式の航過飛行では芦屋基地からレッドドルフィンも参加(写真・今村義幸)

画像: 築城基地からのF-2Aは増槽タンクを付けないクリーン形態で迫力の機動飛行を展示(写真・伊藤宜由)

築城基地からのF-2Aは増槽タンクを付けないクリーン形態で迫力の機動飛行を展示(写真・伊藤宜由)

画像: 米空軍PACAFデモチームのF-16曲技飛行(写真・伊藤宜由)

米空軍PACAFデモチームのF-16曲技飛行(写真・伊藤宜由)

《文と写真》
ブルーインパルスファンネット 今村義幸/伊藤宜由


This article is a sponsored article by
''.