3月5日、愛知県の空自小牧基地で「小牧基地オープンベース」が開催され、多くの地域住民やファンが詰めかけました。この日は、ブルーインパルスが編隊連携機動飛行を披露したほか、政府専用機の地上展示が実現。ファンサイトを運営している「ブルーインパルスファンネットさん」がいつものように現地レポートを寄稿してくれたので、紹介します。今回は記事内のアルバムにて大量の撮影写真を公開してくれています。現地に行った人は思い出の振り返り、行けなかった人にはイベントの雰囲気を十分にお楽しみいただけること、間違いなしです。(編集部より)

 マスク着用ルール変更の3月13日(月)を目前にした2023年3月5日(日)、空自小牧基地において、令和4年度最後の航空祭となる小牧基地オープンベースが開催された。
 戦闘機部隊の基地とは違う地味な航空祭と先入観を持ちがちだが、開催日前々日の金曜日に政府専用機が小牧に飛来!との情報が流れてくると、昨年そのホーム千歳基地航空祭で政府専用機が総理大臣海外渡航により急きょ不在になったこともあって、これまで以上に期待感の高まる航空祭となった。
 政府専用機は先日トルコ・シリア大地震被災地に医療支援資機材を輸送した機体そのものであった。美保基地からは最新鋭空中給油輸送機KC-46Aの初号機が参加するなど、勢ぞろいした空自大型輸送機と陸海自衛隊航空機、そしてブルーインパルスの豪華、夢の共演となった。

画像: 編隊連携機動飛行の開始課目となったダイヤモンドダーティーローパス(写真・今村義幸)

編隊連携機動飛行の開始課目となったダイヤモンドダーティーローパス(写真・今村義幸)

 ブルーインパルスについて特筆すべき点は、今年度航空祭において初めて土日2日間での展開を完遂したことだ。コロナ禍で制限のある中ツアーを再開し、千歳基地航空祭では全員が初めての(展開先で離着陸からすべてを展示する)フルショーとなった。ひとつひとつ確実にこなしてきた今年度ツアーで、最終ステージ小牧において往年のブルーインパルスの機動力を示してくれたことは、来年度に向けての大きなマイルストーンとなった。

運航30周年を迎える政府専用機

画像: 政府専用機の前で一般公開された安全のしおりや食器類(写真・今村義幸)

政府専用機の前で一般公開された安全のしおりや食器類(写真・今村義幸)

 今年の小牧基地オープンベースでの一番のサプライズは、なんといっても政府専用機の参加であろう。前脚収納扉に書かれた112のこの機体は2月13日にトルコへと支援医療資機材等を空輸した機体そのものだ。
 今年度ブルーインパルスの初フルショーとなった千歳基地航空祭(2022年7月31日)では、岸田総理大臣の核兵器不拡散条約(NPT)運用検討会議出席に当たり、政府専用機が前日より千歳を離れ、不在だった。政府専用機は地上展示のみではあったものの、小牧基地オープンベースではブルーインパルスと政府専用機の共演が見られたことは画期的な出来事だ。
 巨大なボーイング777-300ER型機を間近に見ることは民間空港ではあるかもしれないが、主翼の真下に入ってまで見られることはまずない。特別な機体をここまで近くから見られるのも航空祭の醍醐味だ。

画像: 質問に答えてくれた政府専用機整備員の藤崎1空尉とトルコ支援輸送の展示パネル(写真・今村義幸)

質問に答えてくれた政府専用機整備員の藤崎1空尉とトルコ支援輸送の展示パネル(写真・今村義幸)

 政府専用機は1993年4月の初代ボーイング747-400型機の運航開始から30周年を迎える。記念すべきタイミングでの地上展示となったが、千歳基地以外での航空祭にも初参加のはずだ。
 これまで千歳基地航空祭会場から国際平和維持活動(PKO)で出発する政府専用機を見送ったことはあるが、クルーと直接話をしたことはなかった。食器などの機用品や先日のトルコ訪問の写真も展示され、クルーにトルコのオペレーションについて質問することもできた。
 政府専用機の運用には委託先(初代はJAL、現行機はANA)の存在が欠かせない。整備が主な委託内容と思いがちだが貨物搭載などのハンドリングでも想像以上に委託先の貢献があるようだ。例えば、トルコ遠征の際に成田空港に立ち寄り医療資機材を搭載したが、成田から短時間で出発できたのも委託先との連携があったようだ。

大型輸送機と空中給油輸送機が集結

画像: 勢ぞろいした空中給油輸送機(手前からKC-130H、KC-767、KC-46A)(写真・今村義幸)

勢ぞろいした空中給油輸送機(手前からKC-130H、KC-767、KC-46A)(写真・今村義幸)

 政府専用機は千歳基地の特別航空輸送隊が運用するあまりにも有名な要人輸送を主務とするが、国際平和協力業業務、国際緊急援助活動、在外邦人等輸送も行う輸送機だ。C-1、C-2、C-130H、KC-767、KC-46A、そして政府専用機と大型輸送機が漏れなく勢ぞろいしたことに驚いた。特別航空輸送隊司令の山田眞也1空佐は小牧の第1輸送航空隊副司令も歴任しており、どうやらそうした人の繋がりもこの大型輸送機オールスターが実現した要因にあるようだ。英語や航空管制任務の教育を含め、人と人の繋がりや縁があってこその小牧基地オープンベースの展示構成であり、それは陸海空自衛隊全体をも繋げて見せてくれた。

画像: KC-46Aの展示エリアには高度なセキュリティ監視装置が設置された(写真・今村義幸)

KC-46Aの展示エリアには高度なセキュリティ監視装置が設置された(写真・今村義幸)

 KC-46A、KC-767、KC-130Hの空中給油輸送機全3機種が勢ぞろいしたことも特筆に値しよう。最新鋭のKC-46Aはセキュリティレベルが別格であり、特別な監視装置が機体を取り巻いていた。その機体を一般公開してくれた意気込みにも感謝したい。

画像: オープニング飛行を飾ったKC-767編隊の601号機(写真・今村義幸)

オープニング飛行を飾ったKC-767編隊の601号機(写真・今村義幸)

 小牧基地第1輸送航空隊第404飛行隊の空中給油輸送機KC-767はオープニング飛行で編隊飛行を披露し、続いて模擬空中給油の展示飛行を行った。KC-767編隊2機の内の1機601号機は小牧基地オープンベース翌週の3月14日(火)、政府専用機に次ぐトルコ緊急支援物資空輸任務に赴いた。(空中給油デモは602号機が行った(写真は後記アルバム内にあり)。

画像: KC-130Hの給油ポッド。奥側の増槽と明らかに形状が違う他、フライングブーム方式と異なり主翼下に装備されている(写真・伊藤宜由)

KC-130Hの給油ポッド。奥側の増槽と明らかに形状が違う他、フライングブーム方式と異なり主翼下に装備されている(写真・伊藤宜由)

 KC-130Hはプローブアンドドローグ方式の空中給油を行うドローグという給油口を備えており、救難ヘリUH-60Jのプローブに対して空中給油を行う。KC-46AやKC-767のフライングブームとはオスメスが逆で空中給油機側にブームオペレータも必要ないことが特徴だ。給油対象は救難ヘリUH-60Hで、より遠距離の救難任務が可能となる。給油口を格納する給油ポッドの先端にはプロペラが付いていて、これは給油ポンプを回すための動力を得るためのプロペラだという。機側に立った隊員にこうした質問をできたことも航空祭の有意義な一面だ。

今年度の仕上げとも言える2日展開を実施したブルーインパルス

画像: 大型輸送機を眼下にリーダーズベネフィットローパスを見せるブルーインパルス(写真・今村義幸)

大型輸送機を眼下にリーダーズベネフィットローパスを見せるブルーインパルス(写真・今村義幸)

 ブルーインパルスも今年度の最後の航空祭で本領を発揮してくれた。12月の百里基地航空祭では金曜日展開・日曜日帰投の3日展開であったが、この小牧において遂に土曜日展開・日曜日帰投の2日展開を実施したのだ。
 前触れは前週の訓練日程から見えていた。金曜日に飛行場上空訓練が計画されいたため、金曜日の展開がないことは周知の事実であった(飛行場上空訓練の日程は松島基地HPで毎週公示される)。
 元々、小松・岐阜・小牧・浜松より東の航空祭は2日展開であった。今年度はコロナ禍で全員が航空祭未経験のところからはじまり、ひとつずつ慎重に3日展開基調でツアーを進めてきた。これを最後にひとつ2日展開で完遂してくれたことや、さらには電源車3台による1番機・3番機・5番機/2番機・4番機・6番機の時間と手間のかかる2段階のエンジン始動でやったことも含め(電源車が6台用意できるT-4保有基地などでは6機同時始動)、最もコンパクトなフルショー様式で見せてくれたのだ。このことは来年度ツアーの可能性を大きく広げてくれたことを意味する。

画像: 会場上空に大きく自衛隊のシンボル「さくら」を描いたブルーインパルス(写真・今村義幸)

会場上空に大きく自衛隊のシンボル「さくら」を描いたブルーインパルス(写真・今村義幸)

 展示飛行は曲技飛行ではなく編隊連携機動飛行であった。これも航空情報NOTAMで周知されていた予定通りの展示構成だ。雨が降らなかっただけましといった天候ではあったが、政府専用機の上で描かれた「さくら」等が見られ、感銘を受けた。

画像: ウォークダウンするブルーインパルスパイロット6名(左から1〜6番機の順で、名久井朋之2空佐(隊長)、東島公佑1空尉、藏元文弥1空尉、手島孝1空尉、江口健1空尉、眞鍋成孝1空尉)(写真・伊藤宜由)

ウォークダウンするブルーインパルスパイロット6名(左から1〜6番機の順で、名久井朋之2空佐(隊長)、東島公佑1空尉、藏元文弥1空尉、手島孝1空尉、江口健1空尉、眞鍋成孝1空尉)(写真・伊藤宜由)

 メンバー交代もあった。6番機・眞鍋成孝1空尉(航空学生63期)はラスト展示だった。コロナ禍で展示飛行のない時期を支えた功労者の一人でもあり、これまで本当にお疲れ様でした。3番機・藏元文弥1空尉(航空学生67期)は展示デビューとなった。千歳基地航空祭で初お目見えし、次期6番機・加藤拓也1空尉(航空学生65期)の跡を継いで元気なナレーションで盛り上げてくれていた。ポストコロナの先鋒として、最も若いパイロットメンバーとして、ブルーインパルスにさらなるパワーを与えてくれると期待している。デビューおめでとうございました。

画像: 観客の声援に応える眞鍋1空尉(写真・伊藤宜由)

観客の声援に応える眞鍋1空尉(写真・伊藤宜由)

まさにフェス!といった小牧基地オープンベース

 大型輸送機オールスターとなった小牧基地オープンベースは、それに留まらず、陸海空自衛隊や警察ヘリ、消防ヘリが集結した一大航空祭であった。警備犬展示では自衛隊にこんな職種もあるのかと感心するばかりであったし、動物好きの人にも適した仕事だ。空中給油機のフライングブームのオペレータのような仕事もあり、パイロットと整備員といった目に見える職種以外にも実に様々な仕事が自衛隊にはある。英語教育なども小牧の特徴的な任務だ。仕事としての多様性に改めて感心した。

画像: 売店エリア近くに広場で披露された警備犬訓練展示(写真・今村義幸)

売店エリア近くに広場で披露された警備犬訓練展示(写真・今村義幸)

 格納庫でエンジンなどの展示もあった。物産展では地域との協調も感じさせてくれた。
 航空祭を英語で書けばAIR FESTIVAL(エア・フェスティバル)となる。小牧基地オープンベースは巨大音楽フェスのような多岐に渡るもので、とても半日ですべてを見ることができない規模だ。主催者側の苦労は計り知れないが、ここはひとつ「小牧基地航空祭」の名を再び冠し、できれば土日二日開催などもお願いしたい。
(多岐に渡る小牧基地オープンベースの写真は記事終盤に掲載のアルバムもご参照願いたい)

東京五輪隊長機も並んだブルーインパルス

画像: 広大な駐機場も大型輸送機と4万人の来場者で手狭に感じられた(写真・今村義幸)

広大な駐機場も大型輸送機と4万人の来場者で手狭に感じられた(写真・今村義幸)

 これだけ充実した展示内容であったがエプロン(駐機場)のスペースが限られているのも事実だ。特に大型輸送機のためのスペースとしては手狭であり、他のスペースへの影響もあったと容易に想像できる。
 まず、ブルーインパルスのファンサービス(サイン会)は航空祭のメニューにない自主的なサービスであるので、時程によってはできなくても仕方ないと思うのだが、控室の裏側で行われたようだ。午前中の展示飛行のため、時間も短かった。その日の日没までに松島基地に帰り着かなければならない2日展開であるから、これは仕方がない。2日展開の中で良くそこまでやってくれたという気持ちだが、もっと日が長くなってのフルファンサービスに期待しようではないか。控室の裏側にしたのも、いつもの3倍もの大型機を並べたことや、目の前にセキュリティレベルの高いKC-46Aが地上展示されたためにエプロン側を避けたと想像できる。ファンサービスに当たらなかった方にはご理解頂きたいところだ。

画像: 展示飛行を終えたブルーインパルス列線では即座に帰投のための給油が行われた(写真・今村義幸)

展示飛行を終えたブルーインパルス列線では即座に帰投のための給油が行われた(写真・今村義幸)

 エプロンのスペースということでは、列線の予備機の位置に要務機のノーマルT-4が並んだことも印象に残った。垂直尾翼には松島基地第4航空団の4を模した航空団のマークが入っている。さらに4のマークの真ん中には縦に線が入り、11を模したブルーインパルス第11飛行隊固有の部隊マークになっている。

画像: 予備機の位置に地上展示された随伴機のノーマルT-4の784号機(写真・今村義幸)

予備機の位置に地上展示された随伴機のノーマルT-4の784号機(写真・今村義幸)

 そして、このノーマルT-4の784号機は2021年7月23日の東京五輪開会式当日に東京都上空を飛行し五輪を描いた編隊を先導した隊長機だった。できればF-15のような独立した島でこの機体を見せてほしいとも思ったが、それよりももっとリアルタイムにSNSで「五輪隊長機飛来!」と強調すべきだったと省みるばかりである。当日は大型輸送機の展示に圧倒されて失念したのだ。もちろんこれは主催者やブルーインパルスが意図したものではなく、ファン目線での見方であり、この機体が随伴機として来たのは重整備が必要な機体をこの時期に川崎重工に入れるためアクロ仕様機が少ないからだ。

小松基地オープンベース名場面

 小牧基地オープンベースの全てを紹介することは不可能なほど多岐に渡る充実したイベント構成だった。航空自衛隊の任務の多様性を示した小牧基地オープンベースからその一部を紹介する。

楽しみな来年度ツアー、でもその前に

 今年度、コロナ禍で限定的に再開された航空祭であるが、この経験やノウハウは来年度の航空祭に確実に活かされてくるであろう。有料席や持ち込める撮影機材のサイズ制限なども試みられた。しかし、やり方は変わることがあっても、駐機場のスペースは変わらない。商用イベントではなく広報イベントであるから掛けられるコストも限りがある。参加する側の理解や協調があっての航空祭ということはこれからも変わらない。
 来年度のスケジュールも国会で予算審議が終われば発表されてくるだろう。来期度ツアーの準備は万端だ。

画像: 展示飛行を終え控室に戻る後席搭乗メンバー含むブルーインパルスパイロット10名(写真・伊藤宜由)

展示飛行を終え控室に戻る後席搭乗メンバー含むブルーインパルスパイロット10名(写真・伊藤宜由)

 でもその前に、今年度最後のスケジュールが小牧直前に発表された。3月30日の新球場エスコンフィールド北海道「2023 PLAY BALL~HOKKAIDO BALLPARK F VILLAGEオープニングセレモニー」でブルーインパルスが飛ぶ。千歳基地航空祭では日本ハムファイターズのファイターガールが表敬訪問し話題になった。今度はブルーインパルスが日本ハムファイターズの開幕戦で飛び、新球場と開幕戦を祝賀飛行する番だ。

《文と写真》
ブルーインパルスファンネット 今村義幸/伊藤宜由


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