【2022年10月28日(金)1面】
氷や石、目の前に「南極」
「笑顔」「驚き」…身近に感じた自衛隊
政府の南極地域観測事業に協力する海自の砕氷艦「しらせ」(艦長・波江野1海佐)。今年も11月中旬から新たな「第64次観測隊」を乗せて、出港する予定だ。地域へのPR、自衛隊への理解に努める地本の広報業務にとっては、「南極の氷」や「南極の石」が貴重な役割を果たしている。出港前の9月前半、各地に寄港した「しらせ」による艦艇広報などが実施された。参加者の笑顔、驚きなど、交流の様子を紹介する。
24年ぶり室蘭港へ「身近に感じられました」|札幌地本
札幌地本(本部長・佐藤1陸佐)は9月3、4の両日、室蘭港祝津埠頭で砕氷艦「しらせ」と連携し、一般来場者、募集対象者らに対して艦艇広報を実施した。
艦艇広報は、「しらせ」が次の南極任務に備えて総合訓練の一環で寄港したタイミングを活用。室蘭市が主催するスワンフェスタと同時開催で同市が招致した。室蘭港への入港は24年ぶり5度目。
艦艇広報は、甲板を主体に見学する一般来場者用の一般公開と艦橋や制御室を見学する募集対象者らに対する特別公開に区分。担当者の丁寧な説明を受けつつ、見学者は思い思いの質問や感想を述べていた。
このほか、同埠頭に広報ブース、募集ブースを設け、制服などの試着や写真撮影、限定グッズの配布を実施した。特に、甲板での「南極の石(鉱石ガーネットが含有)」など、南極にしか見られないものに人気が集中していた。
また、広報ブースでの制服試着や限定グッズの配布を通じて、自衛隊に対する親近感を醸成した。
参加した一般来場者(4642人)からは、「このオレンジ色の船が好きになりました」など、募集対象者(124人)からは、「『しらせ』で勤務してみたい」「自衛官が身近に感じられました」などの声があった。
札幌地本は「今後もあらゆる場面を通じ、自衛官が職業の選択肢となるよう幅広い世代に対して自衛隊の魅力を発信し続け、自衛官らの採用業務に邁進(まいしん)していく」としている。
長崎港出島岸壁に5年ぶり 2日間で来場1万人超|長崎地本
海自砕氷艦「しらせ」は9月9日から12日の間、長崎港出島岸壁へ来港した。
入港日の9月9日には、長崎防衛協会(渡邉悦治会長)、みなとのみえる丘にある大浦保育園の園児25人の出迎えを受けるとともに、艦長からは長崎ペンギン水族館(田﨑智館長)へ「南極の氷」が贈呈されるなどの歓迎行事を実施した。「しらせ」の長崎港出島岸壁への来港は、平成29年9月16日以来5年ぶり。
また、長崎地本(本部長・江上1海佐)は9月10、11の両日、海自佐世保地方総監部(総監・西海将)、海自22航空群(司令・鈴木海将補)の支援、16普通(連隊長・福添1陸佐)の装備品展示を行い、一般公開を実施した。
来場者は「しらせ」を目の当たりにし、「大きい」「南極までの航海は何日かかるのですか」など、「しらせ」と海自への興味を深めて見学している様子だった。2日間の来場者数は、1万1609人に上った。
長崎地本は「引き続き長崎県内の多くの県民に自衛隊に対する理解を深めることに努め、一人でも多くの志願者の増加につながるよう、積極的な募集広報活動に努めていく」としている。
飛行甲板で「CH101」を公開|鹿児島地本
鹿児島地本(本部長・稲崎1海佐)は9月10日、長崎港出島岸壁で実施された砕氷艦「しらせ」の一般公開に参加した。一般公開は、長崎県防衛協会主催で開催され、鹿児島地本は長崎地本の協力を得て参加した。
当日は、早朝出発にもかかわらず、自衛隊、特に海自に興味を持つ高校生、大学生の希望者が多数参加した。
出島岸壁到着後は、「しらせ」内にある、日頃、調査団が使用する公室で昨年度の活動状況の説明と、「南極の氷」入りの麦茶がふるまわれた。
引き続き、艦橋を見学し、その際には、艦長席での記念撮影など貴重な体験をした。
このほか、飛行甲板で多用途ヘリ「CH101」の見学や、岸壁で陸自の高機動車、軽装甲車、オートバイなどの装備品展示もあり、参加者には満足してもらえる内容だった。
参加した水産学部の大学生から、「『南極の氷』を初めて触って、ロマンを感じました」「良い経験ができました」など多くの感想と感謝の言葉があった。
鹿児島地本は「引き続き、あらゆる機会を活用し、募集対象者に対する自衛隊の認知度向上に努めるとともに、自衛隊への信頼感の醸成、隊員募集に資する広報活動に積極的に尽力していく」としている。
ペンギンの等身大模型と記念撮影が人気|静岡地本
静岡地本(本部長・武田1空佐)は9月16日から18日の間、清水港日の出埠頭(静岡市)で砕氷艦「しらせ」の特別・一般公開を行った。
同艦が清水港に入港するのは4年ぶり。小学生から大学・専門学校生らを対象とした特別公開や予約不要の一般公開を行い、3日間で9246人が見学した。
特別公開では、横須賀を出港した「しらせ」が南極へ向かう様子や昭和基地周辺での活動を紹介する映像を見た後、多くのスイッチやモニターが並ぶ操縦室や周囲を広く見渡せる艦橋、出航中に隊員同士で髪を切り合う理髪室などを見学した。
参加者は乗員の話に聞き入り、「工学部の学生ですが、こういった機械を扱う仕事で知識を生かせますか」など、貴重な体験ができる仕事に興味を示していた。
一般公開では、艦後部にある飛行甲板やヘリ格納庫で、「しらせ」が過去に持ち帰った「南極の石」や「南極の氷」に触れたり、子供の背よりも大きなペンギンの等身大模型と記念撮影ができるコーナーが人気を集めた。
また、岸壁に隣接する清水マリンターミナルでは「清水海洋展」が開催され、静岡地本が海自の活動紹介パネルを展示したほか、「しらせ」に乗って南極へ行った南極地域観測隊員のトークイベントなどが行われた。来場者は、遠く離れた南極で働く人々や活動に思いをはせていた。
静岡地本は「今後も多くの人に自衛隊の幅広い活動を知ってもらえるよう、広報活動を行っていく」としている。
第64次観測隊は来月中旬出港へ
文部科学省、国立極地研究所などの行動計画によると、「第64次南極地域観測隊」と砕氷艦「しらせ」は11月11日に国内から出港する予定。
11月26日に豪州・フリーマントルに寄港した後、南極・昭和基地に到着する計画となっている。
「しらせ」は来年4月10日に帰国・入港する予定(観測隊は来年3月22日に空路で帰国予定)。
防衛省によると、「しらせ」艦長の波江野1海佐は10月26日、同省で井野俊郎防衛副大臣に出国報告を行った。
「しらせ」は、第64次隊に対する協力任務として、輸送ヘリコプターCH101とともに、日本と昭和基地の間の人員や物資の輸送などの支援を行う。