自衛隊の新時代を切り開く女性自衛官たちの活躍に、67年の歴史を持つ自衛隊広報紙「防衛日報」が独自取材で迫ります

キラリ☆輝く女性自衛官 ~ 竹之内里咲2海尉(練習潜水艦「みちしお」)編

 近年、女性自衛官の活躍を推進している自衛隊において、最後までなかなか女性の配置制限が解除されなかった職務の一つが、海上自衛隊の潜水艦勤務である。

 潜水艦は、文字通り水面下で人知れず任務を遂行するため、部外の者にとってみれば、その実状は「謎だらけ」である。ただ、何となく映画やドラマ、マンガなどで描かれた艦内の様子が独り歩きしており、「長期間にわたり狭い艦内で共同生活を送り、プライバシーがほとんどない」「トイレやシャワーなど、水の使用の制限が厳しい」「敵に察知されないようにするため、極力音を立ててはいけない」などのイメージが広まっている。

画像: 練習潜水艦「みちしお」 海上自衛隊ホームページより

練習潜水艦「みちしお」
海上自衛隊ホームページより

 謎だらけの潜水艦勤務について、皆さんが少しでも具体的なイメージをつかめるよう、まだ女性自衛官の配置制限が解除される以前の防衛白書からではあるが、「潜水艦乗りの仕事」という解説文を引用してみよう。

潜水艦乗りの仕事
 航海中、潜水艦乗りは基本的に3交代制で勤務する。この交代制の勤務で当直につくことを“ワッチにつく”という。そして、航海中は、潜望鏡を操作する者を除き、太陽や夜空の星を見る者はいない。
 ワッチ中、当直の一人一人に責任と緊張を維持することが求められる。新米からベテランまで、胸に潜水艦乗りの証である“ドルフィン・マーク=潜水艦き章”を付けている以上、それぞれがそれぞれの場でその重責を担う。そしてそのことに誇りをもつ。
 潜航前は、必要な艦内のバルブの開閉状況などの確認が厳密に行われる。1,000を越えるバルブの状態が適正かどうかをいちいち確認するのは、骨の折れる作業である。しかし、水中に潜航することの危険性を知り尽くしている潜水艦乗りたちは、それを絶対におろそかにはしない。
 また、潜水艦乗りたちは「人間は、ミスをする」ということも知っている。それゆえ、愚直なまでに“ダブル・チェック=再確認”を行う。このため、潜航準備中、各区画の当直が一度確認したものを、一つ一つ幹部たちがチェックして回る。手間のかかることであるが、そのために払う努力を惜しむ者は潜水艦乗りにはいない。
 潜水艦乗りの勤務は決して快適でも楽でもない。しかし、その乗組員たちは、“潜水艦乗り”であるという誇りと使命感を胸に、家族や友人などとの再会を心待ちにしながら、黙々と今日もどこかの海で任務に就いている。

 

潜水艦乗組員初の女性幹部誕生

 防衛省・自衛隊は2017年(平成29年)4月に「女性自衛官活躍推進イニシアティブ」を策定。翌2018年(平成30年)12月、潜水艦勤務への女性自衛官の配置制限を解除した。

 これにより、かつて「直接戦闘や肉体的負担の大きい職域」には女性を配置していなかった自衛隊で、さまざまな「女性初の◯◯」のニュースが報じられるようになった。

■女性自衛官の活躍推進、配置制限解除に伴う「女性初」のニュース

2018(平成30)年8月航空自衛隊で女性自衛官初の戦闘機パイロットが誕生
2019(令和元)年12月海上自衛隊で女性自衛官初のイージス艦艦長が就任
2020(令和2)年3月陸上自衛隊で女性自衛官が初めて空挺教育隊での
基本降下課程を修了し、陸自第1空挺団に所属

 そして今回ご紹介する練習潜水艦「みちしお」所属の竹之内里咲2尉が「潜水艦乗組員初の女性幹部」となったのが、2021年(令和3年)の5月である。

画像: 女性幹部自衛官初の潜水艦乗組員となった竹之内里咲2海尉

女性幹部自衛官初の潜水艦乗組員となった竹之内里咲2海尉

 海自では、潜水艦への女性自衛官の配置制限解除に伴い、潜水艦内に女性区画を設けるなどの整備を推進。2020年に入ると女性潜水艦要員に対する教育が開始され、2021年10月には女性初の潜水艦乗組員(5人)が誕生している。

 ここで、「ん?」と思った方のために情報を整理すると、この「女性初の潜水艦乗組員」は、「幹部」ではなく「下士官(准曹士)」と言われる隊員たち。同年2月下旬に潜水艦教育訓練隊の教育課程に入校し、6月中旬から部隊実習で基礎知識や非常事態への対処法などを学び、晴れて「ドルフィンマーク」(潜水艦乗組員がつけるき章)を授与された。

画像: 潜水艦乗組員となった海曹士の女性自衛官(前列) 潜水艦教育訓練隊ホームページより

潜水艦乗組員となった海曹士の女性自衛官(前列)
潜水艦教育訓練隊ホームページより

 竹之内2尉は、そうした乗組員(男女問わず)を指揮する幹部候補として、2020年6月から部隊実習に取り組み、約1年の長い訓練を終え、翌年5月18日に将来の艦長候補として初めて幹部自衛官向けの金のドルフィンマークを授与された。

 「令和2年版防衛白書」の中に、次のような説明が記載されており、尉官である竹之内2尉のドルフィンマークの意味合いが、分かりやすく説明されている。

「(女性自衛官の)登用については、佐官以上に占める女性の割合を3.1%より増やし、将来佐官以上になることが期待される人材については、尉官の時期に部隊勤務の指揮官職又は指揮官補佐職へ補職することを重視して経験を積ませ、育成を図ることとしている。」

 竹之内2尉は、一般大学(防衛大学校以外)を卒業して入隊した一般幹部候補生。入隊後、幹部候補生学校に入校し、海自の場合、2年目で約半年にわたる遠洋航海を行う。

画像: 遠洋航海時の艦内での1枚(前列左端が竹之内2尉)

遠洋航海時の艦内での1枚(前列左端が竹之内2尉)

 潜水艦乗組員を目指す場合、4年目から潜水艦教育訓練隊(広島県呉市)で約5カ月間、潜水艦について学習する。修業すると、呉か横須賀(神奈川県)のどちらかに配属され、実際の潜水艦で約11カ月、部隊実習を行う。そして入隊6年目、部隊実習を終えると潜水艦乗組員の証しであるドルフィンマークを授与され、以後、艦長を目指して研鑽を重ねていくことになる。

▷▷ 次回は、一般大学を卒業した竹之内2尉が潜水艦乗組員になるまでを追いかけます。

▷第1話 第2話 第3話 第4話

プロフィール

2海尉 竹之内里咲(たけのうち・りさ)
練習潜水艦「みちしお」
平成5年生まれ

【主な経歴】

平成30年 3月練習艦隊司令部付
10月第1術科学校 幹部任務水雷課程
12月護衛艦「ふゆづき」
令和 2年 1月潜水艦教育訓練隊 幹部専修科潜水艦課程
6月練習潜水艦「みちしお」部隊実習
令和 3年 5月練習潜水艦「みちしお」

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