【2021年12月1日(水)1面】 防衛省のシンクタンク、防衛研究所は11月26日、中国の軍事や安全保障について、中長期的な観点から着目し、分析した年次報告書「中国安全保障レポート2022」を公表した。習近平体制による軍改革により、伝統的な陸海空の軍隊に加え、宇宙やサイバーなどの新たな領域を加えた「一体化統合作戦」構想が実現できる軍体制を整備したと分析した。一方で、中央軍事委員会・戦区・軍種での権限と役割の調整など、多くの課題が残されており、人民解放軍の統合作戦能力を多角的に見積もることが重要だ、と指摘している。報告書は12冊目。(2面に要旨

作戦能力、徐々に向上

 報告書のテーマは、「統合作戦能力の深化を目指す中国人民解放軍」。2012年に発足した習体制の下、断行した人民解放軍の統合作戦能力がどこまで深化したのかに関し、(1)構想の変遷(2
)統合作戦体制の成果(3)統合作戦訓練・教育の発展(4)党軍関係の維持・強化-の4つの観点から評価することを焦点としている。

 報告書によると、中国では、2000年半ばごろから「一体化統合作戦」構想が提唱され、伝統的安全保障領域(陸海空)に加え、新型安全保障領域(宇宙・サイバー電磁波・認知領域など)を重視する姿勢が顕著となり、人民解放軍はその統合作戦能力を徐々に向上させていった。

 2012年11月に中央軍事委員会主席に就任した習近平は、江沢民、胡錦濤という2人の前任者と比べ、人民解放軍の統合作戦能力の強化を一層重視する指導者であり、就任後すぐに統合作戦人材の育成に全力を挙げるよう指示した。

 2013年11月には、国防・軍隊改革の方針を発表。15年秋から16年2月にかけて、4総部の廃止と中央軍事委員会他部門制度の発足など、軍の大規模な組織機構改革の内容を次々と発表、実行した。また、軍改革の一環として、海警を人民武装警察部隊(武警)の傘下に移管し、その指揮権を中央軍事委員会に一元化。「中央軍事委員会-武警-海警」による新たな海上国境警備管理体制を構築した。

 2017年10月には、「ネットワーク情報システム体系に基づく統合作戦能力」と「全領域作戦能力」を新たな概念として提唱。19年に「智能化戦争」を提起し、「多領域一体統合作戦」や「智能化条件下の統合作戦」など新たな統合作戦構想の研究を進めていると記述した。

台湾などの訓練活発化

 さらに、軍改革以降、人民解放軍は台湾周辺や南シナ海での訓練を活発化させ、各軍種間の情報共有体制と指揮統制システムの相互接続などを強化していると指摘。ロシアとの合同演習で作戦指揮の能力向上を図っていると分析している。

 人民解放軍は軍改革でその統合作戦能力の深化に関し、多くの成果を獲得してきた。軍が各レベルで人材育成に力を入れているとも指摘。各戦区の政治委員が作戦指揮や科学技術を学び、統合作戦の指揮を可能にすることで、共産党体制との両立を模索しているとしている。

 一方で、軍改革を経ても、(1)中央軍事委員会・戦区・軍種での権限と役割の調整(2)統合作戦意識の希薄さと軍種偏重主義(3)統合作戦訓練の形式主義化、戦区主体の統合作戦訓練と軍兵種訓練の連携(4)高度科学技術人材の獲得・育成・維持の難しさ(5)政治委員の指揮権限と指揮能力のあり方-など、多くの課題が残されており、その克服には時間がかかると目される、と強調した。

米軍上回る能力目指す

 報告書では、人民解放軍の近代化のタイムスケジュールにも言及。2027年、35年、50年が節目の年と設定。「タイムスケジュールを考慮すれば、50年には米軍に伍(ご)す、あるいは上回る能力を獲得することを目指していくものと思われる」とした。

 その背景として、これらの年には、国防費の増額や新装備の導入、体外発言・体外行動のみならず、統合作戦構想、組織機構改革などに注目することで、人民解放軍の統合作戦能力を多角的に見積もることが今後も重要となる、と締めくくっている。

 報告書は、初めて単独執筆の体裁がとられ、杉浦康之・地域研究部中国研究室主任研究官が執筆。日本語のほか英語、中国語に翻訳され、防衛研究所のウェブサイトで閲覧できる。

報告書のポイント

 ★統合作戦構想では、新型安全保障領域(宇宙・サイバー電磁波・認知領域など)重視の姿勢が顕著。

 ★人民解放軍内では、「多領域一体統合作戦」など、新たな統合作戦構想の研究が進められている。

 ★人民解放軍は、台湾周辺や南シナ海での訓練を活発化させ、各軍種間の情報共有体制と指揮統制システムの相互接続などを強化。

 ★中央軍事委員会・戦区・軍種における権限と役割の調整、統合作戦意識の希薄さと軍種偏重主義―など、課題も。

 ★2027年、35年、50年に国防費の増額、新装備の導入、対外発言・対外行動のみならず、統合作戦構想、組織機構改革などに注目。50年には米軍に伍(ご)す、あるいは上回る能力を獲得することを目指す。


◆関連リンク
防衛省 防衛研究所
http://www.nids.mod.go.jp/index.html


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