日清戦争。日露戦争。第一次世界大戦。
 これら三つは第二次世界大戦の前に起こった戦争の数々です。基本的に歴史というのは過去が現在に、現在が未来に影響を起して変わっていくものですが、これらが無ければ第二次世界大戦も違った形であったかもしれません。
 そういう意味では本当に重要な戦いなのですが、そのわりに一般的にひろく認知されているのは第二次世界大戦の方。規模も大きく、日本も濃いかかわりを見せ、なおかつ経験者が語る場もあるのですからこちらが知られているのは当然です。

体験記の少ない明治・大正の戦争

 しかし日清・日露・第一次世界大戦といえば圧倒的に経験談というものが少なく、同じ近代史でありながら少し遠いイメージがあるのではないでしょうか。
 無理もありません。日清戦争が起こったのは明治27年、日露戦争が起こったのは明治37年、第一次世界大戦が起こったのは大正3年。まさに徳川の時代が終わりをつげ、日本が徐々に変わっていった転換期の中で起こった戦争たちなのです。近代の中でも古い類に入るので、後の大戦のように詳細な体験談というものが少ないのです。

 とはいえ、やはり近代史は近代史。第二次世界大戦に至る道のりならば、知っておくのが過去に対しての畏敬というもの。
 という事でその道のりの一部を少し覗いてみましょう。(※なお蔵書のラインナップにより日露戦争についての話題が多めです)

「マンガ明治・大正史 庶民生活泣き笑い」(著:金森健生)

 ひとつの物事を知ろうとするとき、その背景から見てみると理解度が早くなります。
 度々書いていますが、画でみる歴史というのは文章よりもわかりやすく、視覚的にインパクトがあって覚えやすいのが魅力。そんなふたつの素晴らしさを兼ね備えたのがこの「マンガ明治・大正史」です。
 どこかとぼけた人々が織りなす日常の風景が1コマ漫画で描かれるこの作品では、進化の時代でありながらも、ゆっくりと大きな戦争へと向かっていく様も描き出す、まさに近代史初期の光と闇が描かれているのです。
 この本の珍しいポイントは、あまり語られない戦争と戦争の間の空気もしっかり描写していること。
 日清・日露に打ち勝ち、軍人は派手にお座敷遊びをし、景気が良くなり軍艦マーチが流れるなかで、厭戦を訴える「戦友」という歌が流行り、勝ったとはいえ亡くなった兵士の家族の涙があり、景気の上下があり………
 敗戦国としての空気は色々な史料で見ることができますが、戦勝国としての日本の光景、というのはなかなか見られないのではないでしょうか。
 変革の明治、激動の大正、そして長い長い昭和に至るまでの道のりの中でも、民たちは逞しく生きていました。小さな変化や情勢についても触れています。一見の価値あり。

「所は何処、水師営」SF<西郷隆盛と日露戦争>(著:光瀬龍)

 あらすじ:西南戦争で死んだはずの英雄が生きていたーーーーー!?
 明治三十七年、日露戦争。かの有名な「水師営の会見」では、敗北した乃木希典の姿が。大将を打ち破ったのは、なんとあの西郷隆盛。
 この歴史、なにかがおかしい。
 歴史の歪みを正すべく、時間局員(タイムパトロール)たちが立ち上がる。果たして歪みを生んだ犯人は一体誰なのか?正規の歴史を取り戻しに、行け時間局員!

 ………という、十分現代でも、というより時間遡行ものや転生もの(これは一度死んだわけではないので厳密に言うと違うのですが。死んだはずの人物が別の土地で無双する!といった意味で)が流行している今だからこそ手に取ってもらえるのではないか、と思う作品です。
 ところで皆さん、一度は脳内で各々オリジナルのドリームマッチを考えたことがあるのではないでしょうか。生きてた時代は違うけど、歴史上の〇〇と××、どっちが強いの!?というやつですね。
 この本の前半では、西南戦争で死なずにロシアに渡っていた西郷さんが乃木さんと戦うという、まさに歴史のイフの具現化ともいえる戦いを繰り広げます。その描写のなんと細やかなこと!歴史シミュレーションとも言うべき「もしも」の形がそこにあり、「確かにこれなら歴史が変わっていたかも……!」と思わせる面白さがあります。

 しかし面白いのは前半戦だけではありません。後半戦、異なった世界線の水師営の会見の写真をきっかけに動く時間局員たちの活躍も見どころのひとつ。
 確かに西南戦争で死んだはずの西郷さんがどうして?
 正規の歴史ではステッセルと乃木希典のふたりであったはずなのに、どうして?
 もしかして、「そういう歴史」に書き換えた人物がいるのではないか?
 それから始まる時間遡行と犯人の追跡パートは、硬派な前半と違い冒険小説のような気軽さがあります。どちらがどちらということではなく、この両極端が交わるからこそ面白い作品となっているのです。
 ちなみに西郷さん生存説というのは実際に当時ささやかれていた噂話のひとつですね。そのあたりの下地を知っているとなお面白いかもしれません。

「肉彈 旅順奮戦記」(著:櫻井忠温)

 「大将白川」の作者である櫻井氏による日露戦争の戦いの記録。
 先ほど「第二次大戦に比べてこのあたりは生の声がない……」なんて話をしましたが、あるところにはあるのです。明治三十九年発刊なので、まさに一次資料です。貴重!
 開戦からその終焉までを描いた今作はまさに戦場の詳細なルポルタージュ。読んでいるとその光景がはっきりと脳に浮かぶほどに詳細に書かれています。記者が書いたものではなく、当時現役の陸軍中尉が書いたという点も見逃せないポイントのひとつですね。

 また、文章からあふれ出る日露戦争の姿はもちろんのこと、あの乃木大将本人から本文の訂正が入っていたり、この本のために書をしたためてくれていたり、前文を大隈重信が書いていたりとゲストの豪華さがあまりにも凄まじい。著者本人が描いた絵もあり、資料的価値も全体的な価値も高い一冊でございます。

 ほかにも漫画棚の方に、明治という時代の姿と、そんな時代に流される者たち、戦うものたちを描いた「日露戦争物語 天気晴朗ナレドモ浪高シ」(著:江川達也)もございます。日露戦争で参謀を務めた秋山真之の人生を主軸に、近代国家が緻密に描かれており、まさに面白く読める近代史の教科書とも言うべき作品の一つ。皆で淳サンを見守ろう!

 明治大正だからこそ、一次資料が減ってきている。昭和はそれに比べてまだまだ多いだけども、現代はあっという間に過去になるのです。今眠っている昭和の資料だって、いつ無くなってしまうかわかりません。
 ご覧の方の中で、戦争に行かれた方の軍装品や日記、資料などがあったら捨てずにおいてくださいね。なお当館ではそういった品々の引き取り・展示を行っておりますので、「捨てずにいたいけどこの先どうしたらいいかわからない……」といった時にはぜひご一報ください。(最後は営業口調になってしまった………)

アクセス

画像4: 永遠の図書室通信 第44話「日清・日露・第一次世界大戦」

永遠の図書室
住所:千葉県館山市北条1057 CIRCUS1階
電話番号:0470-29-7982
営業時間:13時~16時(土日祝のみ17時まで) 月火定休日
システム:開館30分までの滞在は無料、それ以降は一時間ごとに500円かかります。
駐車場:建物左側にあります、元館山中央外科内科跡地にお停めできます。
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