太平洋戦争。またの名を大東亜戦争。今まで戦地の話や戦地に出向いた人の話、指揮官や軍の話の話などを書いてきました。今回はそんな「太平洋戦争」そのものについて書かれた本を紹介していこうと思います。珍しくマクロな視点から、この太平洋戦争について見てみることとしましょう。(余談ですがこの一文を書くためだけにマクロとマイクロについて調べました。フレーズとしてはよく聴いてたんですが……)

なぜ太平洋戦争は起こったのか

 まず最初に紹介するのはこちら。

画像1: なぜ太平洋戦争は起こったのか

「写真 太平洋戦争」

 皆さまよくご存じかもしれない、あの有名な雑誌「丸」の編集部が纏めたシリーズで、全十巻が発刊されています。当館にあるのは三巻まで。
 第一巻は「ハワイ作戦・南方攻略作戦」、第二巻は「中部・南部太平洋方面攻略作戦 蘭印攻略作戦/インド洋作戦」、第三巻では「ドーリットル空襲/珊瑚海海戦 ミッドウェー海戦」が特集されています。太平洋戦争においての空・海での戦いが写真メインで紹介されており、このコラムでもお馴染み「見る戦史」のカテゴリな本です。
 以前ミッドウェー海戦の記事の時に「太平洋戦争の転換点」とご紹介したのですが、まさしくこの三冊で始まってから転換点までを紹介しているかたちになりますね。

 中身はとにかく貴重な写真が勢ぞろい。よくここまで詳細な部分の写真が手に入ったな!?と思うほどの量です。
 しかし、ただ写真だけ並べてあっても表現の仕方によってはどういうこと?で終ってしまうこともあります。「写真 太平洋戦争」シリーズの凄い所は、途中途中に挟まれている解説の力の入り方。読んでいるうちに、ひとつひとつの戦いに対しての解像度が高くなります。また文章だけでは想像力が至らない場所でスッと差し込まれる写真に読み進めることを助けられ、そして写真に添えられた解説で一枚の重みを理解することができる。「写真 太平洋戦争」はそういう相互作用が上手い本でもあるのです。

 次に紹介するのはこちら。

「秘録 大東亞戦史」(発行所:富士書苑)

 これはすごい。もう見た目からしてすごいんですよね、これ。良いヤケ具合とフォント、外箱のデザインに文体。三段組みなのは一瞬面食らうのですが、この紙の幅で文字の大きさなら逆に雑誌みたいな感覚で読めちゃう感じですね。
 さてこの「秘録 大東亞戦史」、全十二巻。こんな感じのラインナップになっています。各巻紹介文もなんとなく時代が反映されているので、今回は紹介文も添えてお届けします。

1.満州篇(上)
人類史上かってなき生地獄を現出した満州在留邦人の苦難を描いて凄愴―――

2.満州篇(下)
上巻についで凄惨極まりない引揚を記録し、骨をさらす霊魂に献ぐ。

3.ビルマ篇
戦史に比類なき凄惨な戦い。十六万将兵を犠牲にした古今無比の悪戦苦闘。

4.比島編
大東亜戦の天王山比島決戦も物量の前にはかなく潰え、凋落の道をたどる。

5.朝鮮篇
解放の嵐にゆらぐ朝鮮。歴史的変貌の舞台に奏でられた日本の挽歌。

6.マレー 太平洋島嶼篇
ブキテマに奏でた栄光の調べは太平洋の波に沈んで、非風粛々たる玉砕篇!

7.蘭印篇
インドネシア独立への讃歌と南国の抒情を戦雲の赤道下に謳うロマンス篇

8.大陸篇
棺桶に足を突込むような大陸戦線の末期症状。和平に焦る支那戦争の裏面。

9.原爆国内篇
世界の歴史を変えた原爆と、一億玉砕を叫ぶ軍部に躍らされた国民の悲憤。

10.東京裁判篇
未発表の裁判記録を以て、敗者の正義を訴え、是否曲直を白日のもとに曝す

11.開戦篇
軍部の専横に”世界の孤児”への運命を盲進し遂に世界戦争に突入する。

12.海軍篇
無敵艦隊の威容いまいずこ。相次ぐ沈没に一艦をも残さぬ日本海軍葬送曲。

 文字数が限られているのもありますが、このあたりの時代の文章の感じがなんだか好きです。わかりやすく書かれているのは優しいですが、難解な書き方でお出しされるとそれはそれでわかりにくいのが楽しいんですよね。

 先ほど雑誌という書き方をしましたが、その表現はあたらずとも遠からずかもしれません。このシリーズ、小説や解説というよりもルポやドキュメントといったカテゴリなんですよね。それこそ、雑誌の特集記事みたいな印象です。

 記者を中心とした数人の書き手の文章が集まって一冊の本になっているのですが、やはり人によって視点が違うのが見どころ。文体や表現の違いもその一種で、大仰に書く人、淡々と冷静に書く人、読みやすい人、少し文章が難解な人……とさまざま。
 戦後十年経たないうちに発刊されたシリーズなので、書き手たちが実際に戦争を見てきたのも大きいですね。戦地における、特異な状況の中でも失われない人間の善性や、だからこそ剥き出しになる人間の厭な所も余すことなく書かれています。思わず目を覆ってしまいたくなるような事柄も多いのですが、それが戦争。
 戦後十年しないうちに書かれた、未だ生々しい戦争のルポルタージュ。まずは気になる巻から読んでもよし、一巻から読んでも良し。ぜひ手に取っていただきたいですね。

 それでは次に紹介したいのはこちら。

「『戦記』で読み解くあの戦争の真実 日本人が忘れてはいけない太平洋戦争の記録」
(監修:大和ミュージアム館長 戸髙一成)

 2015年発刊という、ここで紹介する本の中では一番新しいかもしれない本。

 監修である戸髙氏は「はじめに」において、戦争体験者の減少、記録の風化や語り継ぐことへの懸念を語り、今この時代、改めて戦記から戦争の記録・記憶を見直す時なのではないか―――――と続けます。永遠の図書室のスタンスから見ても頷くばかりです。
 「日本人なら読んでおくべき9冊」にはじまり、背景や著者についての解説も交えながら、カテゴリーごとに全四十冊を紹介していきます。
 カテゴリーは「総合・戦争検証」「陸軍」「海軍」「零戦・パイロット」「特攻」「満州・朝鮮半島・ソ連」「沖縄戦」「捕虜・その他」ざっと見ると、無いように偏りが無い事に気づくと思います。陸軍なら陸軍、海軍なら海軍……と、良い意味で言えば特化した、悪く言えば偏った本が多い中で、一冊のうちにここまでばらけさせて(かつ均等に)紹介するのは貴重と言いますか、それこそ冒頭のようにマクロな視点で見ることができます。

 そして紹介されている本の中には、ちらほらと見覚えのある作者さんの名前が。半藤一利、吉村昭、水木しげる等々……見覚えのある本や作者さんの名前が出てくると親しみが湧くものです。その本が紹介されているカテゴリーにある初対面の本にも興味が向くかもしれませんね。

 文体も淡々としていてわかりやすく、とっつきやすいのが良いところ。「戦争について知りたいけど何を読んだらいいの?」という初心者にこそオススメの本でございます。
 もちろん、詳しい玄人にも復習になりますし、まだ読んでなかった本とも会える楽しみもあります。近代史についてまだまだ浅瀬にいる人も深海にいる人も、幅広い一太刀に読んで欲しいですね。

 さて、最後に紹介するのは今までと少し毛色が変わります。

画像2: なぜ太平洋戦争は起こったのか

「復録版 昭和大雑誌」

 当時の雑誌をそのまま現代に甦らせた見どころ満載のシリーズです。明治・大正、そして昭和は戦前篇・戦中篇・戦後篇の三部作に分かれています。
 明治篇は伊藤博文の演説や西郷隆盛に関するまとめ、占いのページがあったり、大正篇になると政治的な主張や意見が増えたりと、歴史の流れを雑誌という形でダイレクトに受け取ることができるのでかなり面白いのですが、今回は昭和三部作に着目してみましょう。

 明治・大正の時点で雑誌の内容が大きく変わるように、昭和もまた同じ元号ながら内容や雰囲気が大きく違います。戦前はまだ娯楽やスポーツの記事、可愛らしい広告の姿が見えますが、戦中篇になると見事に軍事色が強くなります。鮮やかな雑誌の表紙はお洒落なものからナンセンスなものまで。そのふり幅もまた味わい深いのですが、戦中篇はシンプルな表紙だったり少国民のきりりとした表情を飾っていたりと、かなり「手に取った人にどんな印象を与えたいか」が露骨です。
 中には東条英機による寄稿文や戦記、戦果も見ることができます。戦時下の生活について書かれた本はあれど、雑誌から見た戦争の姿と記事の傾向の移り変わりをまとめて見られるのはこの「大雑誌」シリーズだけかもしれません。
 また、学徒兵による家族への手紙も掲載されています。「掲載されているもの」だからその内心はわかりませんし、心から書いている青少年もいるのでしょう。とはいえ若い彼らが遠く離れて過ごす家族に手紙兼遺書を充てるというのは、なんとも苦々しく、胸の詰まるような思いに駆られます。

 とはいえ戦時下であっても映画やスポーツに関する記事がまったくなくなったというわけでもなく。戦前篇→戦中篇を読んでいると「そんなにすぐに全部が変わるわけではない」「地続きで生活が変わっていく」感じが伝わってきます。そして戦中篇→戦後編を読むと思い切りの良い手のひら返しを見ることができるので、この三部作はぜひ読んでいただきたいですね。「太平洋戦争が雑誌にどんな影響を及ぼしたか」の本当の姿、一度見ておいて損はありません。

 近代史に限らず歴史は、大きな出来事だけ知ってもその背景やそこに至るまでの事件や人々の動きを掴んでいないとちょっと理解が難しいことがあります。とはいえまず大きな事柄から知ったなら、あとは小を少しずつ埋めていけば理解が深まるのです。

アクセス

画像3: 永遠の図書室通信 第42話「太平洋戦史」

永遠の図書室
住所:千葉県館山市北条1057 CIRCUS1階
電話番号:0470-29-7982
営業時間:13時~16時(土日祝のみ17時まで) 月火定休日
システム:開館30分までの滞在は無料、それ以降は一時間ごとに500円かかります。
駐車場:建物左側にあります、元館山中央外科内科跡地にお停めできます。
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