2021年10月23日(土)、「庄内空港開港30周年記念・空の日」でブルーインパルスが庄内平野を飛んだ。

 8月24日のパラリンピック開会日以降、電撃的に発表されワンパスを行った10月3日の「全国豊かな海づくり大会(石巻市)」に続く展示飛行だ。この時期、入間航空祭から新田原基地航空祭、そして美ら島エアーフェスタ(那覇)へと続く航空祭はすべて中止が発表された。イベントの上限人数1万人では航空祭は開催できない。
 そんな中、庄内平野での展示飛行はブルーインパルス健在を示す絶好の展示飛行となった。会場は広大な庄内平野だ。

隊長の地元が歓迎する航空祭のような展示飛行

画像: イオン三川店に現れたブルーインパルス遠渡隊長コーナー

イオン三川店に現れたブルーインパルス遠渡隊長コーナー

 5月23日のオリンピック開会日に先立つ「東北絆まつり2021山形」以来の山形県での展示飛行になる。山形県で二度も飛ぶのは、紛れもなく第11飛行隊(ブルーインパルス)隊長の遠渡2空佐の出身地が、ここ山形県、庄内空港近くにある三川町であるからに他ならない。「医療従事者等に対する敬意、感謝を示すフライト」で全国から一躍注目を浴び「TOKYO2020」で編隊長を務めた遠渡隊長は地元の英雄だ。
 遠渡隊長の出身地三川町にあるイオン三川店は、地元としての力の入れようで、盛況ぶりを見せた。特設コーナーではブルーインパルス1ラベルの地酒が販売されるなど、その熱量の高さが伝わってきた。

画像: イオン三川店はちょっとした航空祭となった。

イオン三川店はちょっとした航空祭となった。

 イオン三川店の中央コンコースでは、航空祭の売店コーナーやSNSではお馴染みの「れんがはうす」「厚木PXさんきち」「KAZARI隊」が売店コーナーを設営し、さながら航空祭売店コーナーの雰囲気を味わうことができた。
 先日ブルーインパルスファンネットも参加した「八王子航空祭」もそうであったが、屋内での出店ということで電源やWi-Fi環境が使えることから、リアル航空祭では難しいキャッシュレス対応がなされていた。このあたりも新しく今後の航空祭の方向性を示唆するものといえよう。

画像: 展示飛行や募集を案内するポスター(出展:自衛隊山形地方協力本部)

展示飛行や募集を案内するポスター(出展:自衛隊山形地方協力本部)

FMラジオで中継される展示飛行と今後の可能性

 酒田FMによる展示飛行の生中継も、今後の可能性を感じさせるものであった。女性キャスターと4番機練成の手島孝1空尉が務めるナレーターが、航空祭でのナレーションをベースに解説や実況中継をするのだ。コミュニティFMの酒田FMの出力は20Wであり、放送圏は半径10km程度である。イオン三川店屋上ではこれを受信することはできなかったが、その代わりにスマホでサイマル放送を聞くことができた。ネット配信であるサイマル放送は数秒の遅延が生じる。展示飛行中には課目とのタイミングのずれを感じる場面もあったが、搭乗したパイロットの紹介など、総じて放送された内容は聞き取りやすく、航空祭会場でスピーカーから流れるナレーションよりもクリアであった。そして、全国のファンがこれを聞くことができた。

 前述のキャッシュレス決済もこのコミュニティFMによる中継も、4Gで航空祭の人出では回線が不通になることがあり使えない。今後5Gが普及すれば、20万人規模の入間航空祭でもこうしたサービスが実現するはずだ。山形の云わば地方イベントでの展示飛行からこうした将来性を見出せたのは画期的なことであった。

イオン三川店屋上が整理券を配布して開放された

画像: 整理券が配布され開放されたイオン三川店屋上(課目はオリジナルレベルキューピッド)

整理券が配布され開放されたイオン三川店屋上(課目はオリジナルレベルキューピッド)

 多くの人が庄内平野のあちらこちらから、また鳥海山の中腹から見た人もいた。筆者は山形地本のツイッターから飛行班長の平川3空佐が地上統制で来られていると知り、もしや飛行指揮所が設けられ、ちょっとしたファンサービスも行われるのではないかとの期待感を持ってイオン三川店に赴いた。しかしどうやら、FM酒田からの中継でも伝えていたと思うが、飛行指揮所は日本海総合病院の屋上にあったようだ。

画像: 余目病院上空を通過して庄内病院へと向かうブルーインパルス

余目病院上空を通過して庄内病院へと向かうブルーインパルス

 整理券をもらって入場したイオン三川店の屋上は、屋上駐車場を閉鎖して開放されたものだ。整理券のグループ毎に区角割されており、密への配慮もなされていた。展望を目的とした屋上駐車場ではないため、南方の視界は開けていたものの北方の鳥海山は屋上の建造物に隠れて見えなかった。いや、もし晴れていれば鳥海山の山頂はそこにそびえていたのかもしれない。いずれにせよ、曇天もあって鳥海山に後ろ髪を引かれることなく、また、ブルーインパルスが庄内平野の中心点ともいうべき場所のイオン三川店を基準点にして飛んだため、自分の周りを飛んでいるような眺めを充分に楽しませて頂いた。

白鳥に配慮した高めの展示飛行

画像: イオン三川店を中心に回るデルタ360ターン

イオン三川店を中心に回るデルタ360ターン

 ブルーインパルスは、遠渡隊長を1番機・編隊長として、編集連携機動飛行を実施した。
 実施課目は、デルタローパス、リーダーズベネフィットローパス、デルタ360ターン、フェニックスローパス、さくら、オリジナルレベルキューピッド、720°ターン、サンライズの順で、8課目だった。
 デルタローパスは遊佐→酒田→日本海総合病院→余目病院→荘内病院→イオン三川と長い区間で実施された。区間によってはスモークはオンオフされ、そのため8課目というよりも、8種類の課目で12課目にも及ぶ展示飛行を実施したと言えるかもしれない。

 高度は高かった。庄内平野で高い建造物といえば酒田風力発電所の高さ100m(約330ft)の風車くらいであろうか。庄内空港も近くにあり、そんなに高い建物はないはずだ。にもかかわらず、展示高度は高めに設定されていた。
 庄内空港の航空気象情報からシーリングは5000ftと思われたが、その下で2500~3000ftほどで飛行したように見えた。これはイオン三川店屋上(4階相当)から見てもかなり高く感じられ、音も小さく物足りないほどであった。通常であれば1000~1500ftで実施できるはずだ。

画像: コハクチョウが飛来した庄内平野。本当に美しい土地だった。

コハクチョウが飛来した庄内平野。本当に美しい土地だった。

 しかし、この時期庄内平野には多くのコハクチョウが渡ってきており、白鳥たちにとっては驚きだったようで、ブルーインパルスの通過で群れが舞い上がる場面があった。この土地で生まれ育ち庄内空港に離発着する飛行機を見てパイロットへを目指すようになった遠渡隊長には、当然この時期の白鳥の飛来は想定内であったであろう。地上メンバーも現地展開して至る所にいる白鳥の群れに驚いたはずだ。
 筆者も最上川河口付近に100羽程度でも群れが来ていれば、そこで撮影するのも良いなと考えていたが、至る所に群れがいることにびっくりした。高めの高度設定は白鳥への配慮であろう。

コロナ禍のブルーインパルスを支えたメンバーのラスト展示

画像: 最後を飾ったサンライズ

最後を飾ったサンライズ

 展示飛行のメンバーは以下の通り。FM酒田のサイマルラジオ放送で確認した。

1番機:遠渡祐樹2空佐(飛行隊長)/後席・名久井朋之2空佐
2番機:住田竜大1空尉(ラスト展示)/後席・東島公佑1空尉
3番機:鬼塚崇玄1空尉
4番機:永岡皇太1空尉
5番機:河野守利3空佐(ラスト展示)/江口健1空尉
6番機:真鍋成孝1空尉

ブルーコントロール(地上統制官):平川通3空佐(飛行班長)
ナレーター:手島孝1空尉(4番機)

 2番機・住田1空尉と5番機・河野3空佐はこの展示飛行がラスト展示であることが紹介された。

画像: 河野守利/3等空佐/5番機 航学57期/佐賀県出身/航空自衛隊生徒44期卒 着隊/平成30年4月1日 (出展:航空自衛隊)

河野守利/3等空佐/5番機
航学57期/佐賀県出身/航空自衛隊生徒44期卒
着隊/平成30年4月1日
(出展:航空自衛隊)

画像: 住田竜大/1等空尉/2番機 防大55期/北海道出身/北嶺高校卒 着隊/平成30年11月1日 (出展:航空自衛隊)

住田竜大/1等空尉/2番機
防大55期/北海道出身/北嶺高校卒
着隊/平成30年11月1日
(出展:航空自衛隊)

“3年間お疲れ様でした。隊員にとっても国民にとっても大変厳しい時期にここまでブルーインパルスを繋いでくれてありがとうございました”

 遠渡隊長も今年度で最後の年となる。今後の展示飛行が発表されていない現在では、これがラスト展示となった可能性もある。しかし、年が明ければ航空学生卒業式や防衛大学校卒業式といった部内行事もあり、是非飛んで頂きたい。

画像: 遠渡祐樹/2等空佐/飛行隊長1番機 一般92期/山形県出身/東京国際大学卒 着隊/平成31年4月1日 (出展:航空自衛隊)

遠渡祐樹/2等空佐/飛行隊長1番機
一般92期/山形県出身/東京国際大学卒
着隊/平成31年4月1日
(出展:航空自衛隊)

 しかし、常に二人のORが存在する1番機パイロットがラスト展示として紹介されて飛ぶことはない。計画的に展示を分担するのではなく、いつでもどちらかが飛べる体制を取っているからだ。任期が終わってみて、あれがラスト展示だったのだと顧みるのみである。そうした1番機であっても、故郷から熱烈な歓迎を受けて凱旋飛行を実施したことが大きな金字塔となったことは間違いない。

美しい庄内平野での展示飛行に感謝

画像: 月山の寒河江ダムに掛かった虹。天気予報の優れない中、この虹を見てこの展示飛行は成功すると確信した。

月山の寒河江ダムに掛かった虹。天気予報の優れない中、この虹を見てこの展示飛行は成功すると確信した。

 鳥海山の横を飛ぶブルーインパルスを見たいということもあって、今回山形まで出向いた。鳥海山は本当に美しい山で、以前に新潟から苫小牧へのフェリーで千歳基地航空祭に行ったときに船上から見た鳥海山の姿は、今でも脳裏に焼き付いて忘れられない。あの鳥海山の横を飛んでブルーインパルスが現れるのだ。これを見ない手はない。しかし、冬の曇天下ではそれも叶わなかった。それでも、東北六魂祭で訪れた山形市内の景色とは違い、これもはじめてだが美しい月山を越え、そして開けた庄内平野の景色は、鳥海山が雲に隠れていても美しいものだった。
 これもブルーインパルスが行かなければ垣間見ることのなかった世界だ。是非また今度は鳥海山がクリアに見える時期に展示飛行を行ってほしい。

文と写真(特記のないもの):ブルーインパルスファンネット 管理人 今村義幸


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