「戦地」シリーズを抜けたらそこは旅行本の棚であった。

 「雪国」じゃないんだぞ、というお叱りが聞こえてきそうな書き出しで始まりました。

 今回は少し特別編に近い趣となっております。基本的に「永遠の図書室」には戦争・近代史関連の書籍が収められているのですが、この「旅行」コーナーだけあまり戦争の匂いというものがしません。
 とはいえ今まで紹介してきた土地も、「戦地」なんて名前の場所は無いのです。地球上に存在する美しい土地を、人間が「戦地」にしてしまっただけ。傷は時をかけて治るものですが、「そこに傷がついた」という事実は無にはできないのです。
 きっとその連続が歴史なのでしょうが、今回の主題はそこではありません。ややこしくなってくるのでこのあたりで。

 しかし傷がついたとはいえ、土地は土地。傷以外にも語るべき場所や目を向けるべき点はたくさんあるのです。人も土地も、というか万物に言えることですが、一面だけ見ても全部の理解はできませんからね。

人生は旅である。旅とは人生である。

 今回はいつもとは違う一面から世界や日本に目を向けていきたく思います。コロナが落ち着いたら行きたい旅行先を思い浮かべつつ、お読みいただけたらと思います。

「パリ 旅の雑学ノート カフェ・舗道・メトロ」(著 玉村豊男)

 ご覧ください、このかわいい、そして味のある表紙を。
 この本は「雑学ノート」のタイトル通り、カフェでのメニューの見方や電話のかけ方、舗道の歩き方や馬車の話などにまつわる雑学がたくさん詰め込まれている本です。

 実はこの本が発行されたのは昭和五十八年。なので実際この本の情報を教科書にパリへ挑むのはオススメしませんが、どちらかというとこの「旅の雑学ノート」は鞄の中にそっと入れて、カフェで読むのがたのしいのかな、と思います。物事を行動に移す前の(あるいは旅行の準備をしている時のような)あのわくわく感が味わえる本、それがこの「旅の雑学ノート」なのです。
 いいなあ、あつあつのコーヒーにキッシュ……

「シルクロードのシ」(著 栗本薫 木原敏江)

 著者たち五人による中国大陸旅行を、それぞれ小説やマンガ、エッセイやイラストなど各々表現し、一冊にまとめた珍道中記。

 表現方法も視点もばらばらなので、同じ旅行記でも語り方が違うのが面白い。しかも女子会十三日の旅ですからね、語る事はたくさんあるというわけです。エッセイ、漫画のおもしろさもさることながら、小説もまた面白い。大陸で受け取ってきたエネルギーを作品に変換しているさまがとても良いのです。
 基本一人旅が好きな私ですが、複数人での旅行もにぎやかでいいなあ、と思わせる……そんな一冊です。楽しそう!

「中国への旅 東山魁夷小画集」

 「東山魁夷(ひがしやま・かいい)」という方をご存じでしょうか。日本画家であり、その風景画は国民的画家と呼ばれるほど。なお川端康成と親交が深かったそうで、一瞬書き出しのパロディを後ろめたくなってしまったことを懺悔いたします。

 そんな東山魁夷による、中国の風景を描いた画集。画集なのでもっと大きなサイズでじっくり見たい!という気持ちにもなりますが、添えられている言葉や紀行も含めてきっと「中国への旅」なのです。文庫で味わう小画集、なかなか他では味わえない魅力があります。

 では肝心の絵の方はというと、なんというか「人間、きれいなものを見ると言葉を失うんだな」という感じです。自分はこの美しい風景に言葉を当てはめてしまっていいのか?そんな戸惑いさえ覚える作品たちです。
 ただそれではコラムになりませんので、あえて言葉にするなら「絵から空気の味がする、その場にいるかのような身に纏う空気のあたたかさ、つめたさを肌に感じる」、でしょうか。

 もしかしたら、言葉にならないものを「絵」と呼ぶのかもしれません。

「バリ 魔界天界不思議界」(写真 菅洋志 構成 杉浦康平)

 この表紙はさすがに惹き込まれてしまうでしょう。そのうえ「魔界天界不思議界」と心をくすぐられるような山盛りのネーミング。そして、写真だとわかりづらいかもしれませんがこの本、かなり大きいです。ずっしりとした重みの中に一体どれだけの不思議が詰まっているんだ、なんて期待してしまいます。
 函入りの本ってこういう所が面白いんですよね。本文に入る前に多数のおもしろさが詰まっていると、嫌が応にもわくわくが隠せません。本体の星空のような装丁と金色に光る箔押しもまた素敵です。

 さて、中身についてのお話に移りましょう。一言で言えばこれはバリ島で撮った写真を纏めた写真集。
 もう、熱というのでしょうか、生命力が紙面から伝わってくるようです。確かにそこにある無形の神が息づいている、そんな感覚さえ覚えるような壮大な自然と造形物、そして信仰心と生命力の溢れる人間たち。厳かな景色も、極彩色の祭事も、どれも普段接することのない独自の宗教観が垣間見え、ただただ魅入ってしまいます。

 いや、魅了という言葉すら生ぬるいのかも。釘付けになって目が離せなくなるような、そんな心地さえ覚える、まさに不思議な一冊です。
(※途中、生贄の写真などが挟まれるので、そういったものが苦手な方はご注意を)

 文化を守るのも壊すのも、土地を守るのも汚すのも、また人間なのです。
 何十年、何百年経っても人間はあまり変わらない生き物ですが、それでも何かを知る事で「守ろう」という気持ちが芽生えたならば、それが進化というのではないでしょうか。
 土地が、文化が、そこに息づく命が守られますよう。これが多分恒久平和を願うってことなのだろうな、と思いながら今回は筆を置かせていただきます。

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画像5: 永遠の図書室通信 第32話「旅行」

永遠の図書室
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電話番号:0470-29-7982
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