ごきげんよう、永遠の図書室で店番をしている者です。

 今回のテーマは「インパール・ビルマ」。実はこの原稿を書いている日は7月の4日なのですが、奇しくも1944年のこの日、インパール作戦の中止が決定されました。

 インパール作戦といえば「史上最悪の作戦」という呼び名があるわけですが、その名に(嫌な意味で)ふさわしいほどの内容です。概要を聞いたり、読んだりするだけでなんとも胸のあたりがもやもや、腹のあたりがぐるぐる、頭が痛くなるような、読み終わった後に大きな溜息を付いてしまうような作戦です。戦地に貴賤は無い、とは毎回言ってはいるのですが、それにしたって……という感じなのです。

 では本題に入る前に、少しインパール作戦についてのおさらいをしておきましょう。

「史上最悪の作戦」の全容

 1944年3月、ビルマ戦線においてこの作戦は開始されました。目的は読んで字のごとし、簡単に言えばインパール攻略のため。

 この時攻略に対して攻めの姿勢でいたのがご存じ牟田口廉也。無茶な作戦を立案する牟田口に反対の声はもちろんあったものの、戦況があまりよろしくはない状況だったため牟田口の案は通ってしまいました。いつの世でも声の大きい人の案というのは、正しいか間違っているかに関わらず人の耳に入ってしまうものです。恐ろしいものです。

 この作戦においての補給手段に「ジンギスカン作戦」というものがありました。家畜(牛や山羊や羊など)に荷物を運ばせて、ついでに食べてしまおう!というもの。なるほど名案です。不可能という点に目を瞑ればの話ですが。

 なにせ相手は生き物、しかもそういう意図に使うにはあまりに不向き。そううまく行くはずがありません。荷物を背負ったまま逃げてしまったりとうまく行かず、そのうえ家畜をたくさん連れながらの進軍は格好の的。進撃のルートも楽なものではありません。

 食料が足りない代わりに感染症と牟田口の無茶と強行ごり押しと攻撃は沢山あるような、そんな戦場でした。経緯としてはもっと詳しいのですが、ざっくり言えばこんな感じですかね。感染症や飢餓により亡くなった兵士の死体は道に沿って山のように積み上がり、その場所は「白骨街道」と呼ばれていました。
 当然、作戦は大失敗。大本営にさえ「一五軍ノ考ハ徹底的ト云ウヨリハ寧ロ無茶苦茶ナ積極案」と言われている始末です。ただこう言いつつ許可したのも大本営なので、どうして無茶苦茶な積極案なんか通しちゃったんだ、とは思うのですが。
 「本当にひどい現場とそれをわかっていない上層部」という概念は、哀しいかな時を超えても存在するものです。

 前置きが長くなってしまいましたが、ここで棚を見てみましょう。
 まずご紹介したいのはこちら。

「五十年目の日章旗」(著 中野孝次)

 インパール作戦で命を落とした兄。肉親を失い、悲しみと作戦への怒りを五十年間抱えていた弟は、ある日新聞で自分の兄の名が書かれた日章旗を見つける……
 そこから弟である筆者による兄との記憶と思いが綴られていきます。 

 家族、兄嫁、そして弟である自分。一人の人間を想った人々の心のうちの叫びは、読んだ人の心に重くも真摯なものを残します。まさに鎮魂の書というべき一冊。「五十年目の日章旗」を読んだあとに掲載されている短編「スタンド」は、ここまで読者という視点で中野家を見てきた人たちへの話と言っても過言ではないでしょう。

 少し話が逸れてしまうのですが、併せて当館にある「私の二・二六事件ー弟の自決」(著 河野司)も紹介してしまいます。

画像1: 「史上最悪の作戦」の全容

 こちらは「日章旗」とは逆に、兄が弟に想いを馳せたもの。二・二六事件で命を落とした弟について書き記し、二・二六事件について調べ上げたノンフィクションです。
 境遇は違えど、どちらも歴史に翻弄された「きょうだい」についての話です。

 もしや兄弟の話をするためだけにこの本を紹介したのか?と言われそうですが、いえいえ、きちんと意図があってこちらの話をしたのです。

 次の本を紹介する前に佐藤幸徳中将という人物について紹介しておきます。
 佐藤中将はインパール作戦において第31団の師団長として参加しておりました。言ってしまえば現場側の人です。前述したように、インパール作戦はひどいものでした。佐藤中将は撤退を進言したものの、司令部からはとにかくやれの一点張り。補給は来ない、部下は倒れる……という所でついに限界に達し、独断で部隊を撤退させたのです。

 これは陸軍初の抗命(軍人が上官の命令に反抗する罪)事件とされ、牟田口はこれに激怒。佐藤中将は牟田口によりクビになり、ジャワ島へ送られインパール作戦の汚名を被らされてしまいました。できれば歴史は公平な目で見たい私もさすがに頭を抱えてしまいます。
 しかし、上官の命令が絶対であったこの時代に独断で行動したのはまさに勇気。実際このおかげで多くの兵の命が救われているので、善の類いなのだと思うのです。

 ということで紹介するのがこちら。

「抗命の軍将 嗚呼、インパール 佐藤中将の悲劇」(著 杉田幸三)

 陸軍用語やインパール作戦に携わった人物たちの編成表を一番最初に置いてあるのが親切。佐藤中将の生い立ちから書き、当時の背景も含めわかりやすく、しっかりと書いてあります。
 作戦のみに焦点を絞っているのではなく、その前段階から書いているので「なにがあってここに至ったのか?」が頭にすんなり入ってきます。
 さきほど抗命の話をさせていただきましたが、この事件は「戦場の二・二六事件」ともいわれているのだとか。確かにあちらも状況こそ違えど抗命と呼べるでしょう。先ほど二・二六事件についての本を紹介させていただいたのはこういう理由もあったのです。
 戦場について予め知っていても、読むときはやはり辛く、苦しい気持ちになります。この状況を生んだものに怒りさえ覚えてしまいます。だからこそ佐藤中将の行動がより眩しく見えるのです。

 無茶な作戦を押し通し、惨劇を作り、責任逃れをした人物。命が軽んじられていた時代に、命を救った人物。作戦を通してしまった大本営、振り回された兵たち。

 白骨街道には今も、日本人の遺留品が残っているそうです。

画像2: 「史上最悪の作戦」の全容

アクセス

画像3: 永遠の図書室通信 第28話「戦地・インパール・ビルマ」

永遠の図書室
住所:千葉県館山市北条1057 CIRCUS1階
電話番号:0470-29-7982
営業時間:13時~16時(土日祝のみ17時まで) 月火定休日
システム:開館30分までの滞在は無料、それ以降は一時間ごとに500円かかります。
駐車場:建物左側にあります、元館山中央外科内科跡地にお停めできます。
twitterアカウント


This article is a sponsored article by
''.