戦地に関する棚を紹介するのもこれで三回目。今回はマレーシア・インドネシアについて書いていこうと思います。

 第二次世界大戦というフィルターを通してみると、マレーシアと言ったらやはりマレー作戦、インドネシアといったら蘭印作戦、独立戦争が有名なのではないでしょうか。
 これは完全に主観なのですが、なにせこのあたりの作戦や歴史の背景はとにかく複雑。どこから手を付けていいものか………という時にちょうど良い本を見つけました。それがこちらです。

「マレー電撃作戦 シンガポール攻略戦 写真で見る太平洋戦争2」
(監修 冨永謙吾 伊東駿一郎)

 「子供向けの本じゃないか」と思われるかもしれません。しかし逆に考えてみてください、子供向けに書かれているということは、それだけ読みやすい・理解に重きを置いているということ。そうなるとどんな専門書よりもわかりやすいのが、こういった学習書になるわけです。「子供だまし」と「子供向け」は違いますし、難解な事をそれでも知りたい!と思ったとき、最初はやさしいものの方が良い時もあるのです。

 昭和51年に出されたこの本は、半年におよぶマレー作戦においてシンガポールの戦いに重きを置いている一冊です。副題に「写真で見る」とついているだけあって、資料の量も豊富。なんと銀輪部隊の写真もあります。銀輪、つまり自転車で攻め入ったということ。見た目は完全に通学路のそれなのですが、考えてみたら機動力はあるし小回りは利くし、何より速いので利には適っているんですよね。ただ今と違って道もそこまで整地されているわけではないし、そこまで荷物を持てないのはネックです。

 また、なんと言ってもこの本の良い所はとにかく優しいこと。解説のわかりやすさはもちろん、作戦においてのルートなどを地図付きで記してくれているので、文字だけだとなんとなくイメージしづらいものへの理解度がぐっと深まるのです。
 それだけではなく兵士の装備もイラストで書かれており、戦車に関しては詳細な情報、長所や短所、区分や名前など、普通の本では基礎知識として流されそうな所もばっちり書いてあります。年表・用語解説もあるので、時系列や文章中の用語がわからなくなってもこの1冊でカバーできてしまうという、なんとも親切な本です。
 表記や書き方に時代を感じるので、昭和に発行された児童書に興味がある方にもお勧めしたい一冊です。

 それでは次にご紹介する本はこちら。

「攻略!ジャワ・スラバヤ 日本人による日本人の記録」(著 棟田博)

 タイトルからお察しいただけるかもしれませんが、インドネシアでの戦いについて書かれた書籍。作者はこの界隈ではおなじみ棟田博氏。氏の書籍は他にも陳列していますので、いずれそちらの紹介もしたいですね。
 ところで私が今回この本を取り扱った理由はいくつかあるのですが、その中の一番大きい理由として第一章の冒頭があります。

「昭和一六年一二月のなかばすぎであった。千葉県館山の海軍落下傘部隊から、染谷中尉ほか数名の姿が、突然、消えた。」(本文より抜粋)

 その瞬間、「あ、この本はけして他人事ではないぞ」と思いました。もちろん戦争や歴史を取り扱う以上どの本もけして他人事ではないのですが、実際に地名を出されるのはまた違うものがあります。果たして落下傘部隊の彼らはどこへ行ったのか?なんのために姿を消したのか?数ページ後に明らかになる真相は、大きな作戦へのまさに第一歩、といった印象でした。

 落下傘部隊の誕生から成立、戦場の状況や作戦の詳細を書き、それだけではなく兵士たちの心情にも寄り添うという読みやすさと読み応えが両立している、なかなか稀有な一冊です。
 抽象的に言ってしまえば、空にぱっと咲いた落下傘が散るまでのお話。

 「人間二十五年」と、きっと晴れやかに言ったのかもしれない彼らについて考えると、なんとも胸が締め付けられる感覚になります。

 では最後に紹介するのがこちら。

 余談ですが、このコラムを書くとき一番時間がかかるのが選書の段階。特に今回のインドネシア・マレーシアについてはかなり苦戦させられました。
 ああでもないこうでもないとぐるぐる悩みながら本を探していたのですが、そんな中目を引いたのがこの本。SANRIOと書いてあるものの、はたして本当に我々の知るあのメジャーなSANRIOと関係があるのか。ただ単に何かの包装紙をブックカバーにしたように見えるのですが、果たしてその中身は……

「シンガポール -運命の轉機ー」(著 辻政信)

 またか!!

………と言われそうですが、そうです。このコラムにおいてたびたび、というよりよく名前の挙がるあの辻政信です。おかげで「つ」と打つだけで予測変換に出てくるほどの出没率。好きなのか?と言われそうですが、別に好きではありません。好きではないのですが、今回に関してはなんとなく「見知らぬ土地で困って迷っているときに偶然出会った、そこまで親しくはないが全く知らないわけではない知り合い」のような感覚を覚えました。

 しかしそこは辻政信です。彼の名でシンガポールと言えば、嫌でも華僑粛清事件が思い浮かびます。しかもその後僧に変装して潜伏していた期間があり、いわば大規模な責任逃れをしました。ここが辻政信の評価が二極化するポイントの一つでもあるのですが、そんな彼が関わったこのシンガポールという土地について書かれたこの本、一体何を考え、何を以てその土地に在ったのか。

 後の世を生きる人間はあれこれ言うことができますが、やはりあれこれ言うならば知識を得て、言葉にする責任を得てからの方が良いのです。そしてやはり悔しいことに読みやすい文章を書きます。最初から文筆家だったほうが良かったのではと少し思いますが、恐らく文筆家として世に出たら書く内容は無かったんじゃないだろうかなどと思うのです。

 ちなみに付録には「マレーの虎」こと山下泰文からの感状もございます。貴重!

 第二次世界大戦におけるマレーシア・インドネシアは複雑です。おそらくひとつひとつに焦点を絞れば理解することはできるのですが、とはいえ理解するべきものがかなり多い。
 細かいパズルの小さなピースに書かれている絵を見て考え込むような途方もなさがありますが、それでも数個集めて島を作ると、全体像の端っこが見えたような、少しだけ安堵するような感覚になるでしょう。

 今回紹介した三冊はピースのひとつではありますが、それでもやはり1の理解は100の理解への一歩なのです。

アクセス

画像5: 永遠の図書室通信 第26話「戦地・マレーシア・インドネシア」

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電話番号:0470-29-7982
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