永遠の図書室には人物棚の他にも、いわゆる連なっている棚、というものがございます。それが「戦地」と「著者」です。「著者」に関してはいずれ紹介させていただくとして、今回からは「戦地」棚から数々の書籍を紹介していきたく思います。

 では「戦地」初回とのことで、軽く当館にある戦地棚を紹介しましょう。カテゴリーとして紹介している戦地は全部で六つ、「フィリンピン」「ガダルカナル」「インパール・ビルマ」「マレーシア・インドネシア」「ノモンハン」「その他太平洋」となっております。ということでこれから六週間、よろしくお願いします。

日本軍と連合国軍との戦い

 まず一週目となる今回ご紹介するのは戦地・フィリピン。太平洋戦争の際、日本軍が連合国軍と戦いを繰り広げた戦地ですね。一言で言うならば、これは連合国軍が日本からフィリピンを奪還するための戦いでした。日本はそれを防ぐべく戦ったものの、結果は連合国軍の勝利。この戦いでフィリピン全土が戦地となり、日本軍、連合国軍、そしてそれ以上に戦地となったフィリピンの人たちの多くが犠牲となりました。

 そして、日本軍の死因の多くは餓死や病死、自殺。「戦争で死んだ」というよりも「飢餓に殺された」という表現の方が状況を表しているのではないかとさえ思えてきます。中にはどうしようもなくなって人肉に手を出した……という話まであります。飢餓も病気も、生物である以上こちらが不利ですからね……

 それではフィリピンについての説明をしたところで、次は本のご紹介。まず紹介するのはこちら。

「Gパン主計ルソン戦記」(著 金井英一郎)

 さてこの本の主人公であり著者である金井氏はなんと千葉県出身。序盤ではスキーに行って女子3人といい感じになり、岩登りを楽しみ、友達と海で遊び、大富豪のお嬢さんといい感じになり……と、数ページは完全に若々しいと言いますか、当世風にいうなら楽しい思い出をSNSに残す元気で陽気な若者の雰囲気です。元気で陽気なタイプの若者は明治も大正も昭和も、ましてや平成・令和になっても存在するのです。

 しかし、そんな太陽なような青年をも曇らせ、地獄に落とすのが戦争というもの。経理部に所属になった彼を待ち受けていたのは、タイトルにもなっているルソン島でした。

 戦記や戦争関連の本は兎角難しい単語が並んでいたり、難しい言い回しをしていたりする本が多いのですが、この本に関しては読み口が軽く、わかりやすく読み進めやすいのが特徴。しかし、そこに記されている内容は読み口と違って重く、苦しいもの。そのバランスこそが読者にページを捲らせるのです。特に前述した飢餓について触れた項目は、読んでいるだけで心臓を雑巾のようにぎゅううと絞られるような気持ちになります。

 筆者はあとがきにおいて「大正生まれがいっせいに生活に暇ができて戦記を書いている」といったことをかなり皮肉たっぷりに書いています。その中の自費出版のくだりは、少し思い当たる本がいくつか頭に浮かんだので少しだけ納得しました。

 その中でこの本は、おそらく「戦争を様々な世代にダイレクトに伝える」という意味では一級品だと思います。「次の世代の人たちに数多く読まれてこそ、はじめて戦争を語り継いだ、と言えるのだと思う」と話す著者。令和を生きる皆さんにこそ出会ってほしい一冊です。

 さて、次にご紹介するのはジャンルを変えて、個としての戦記からドキュメントへ。

「ルソン戦記 ベンゲット道」(著 高木俊朗)

 高木俊朗といえばノンフィクション作家であり、彼本人も陸軍航空本部報道班員として従軍した人物。かく言う永遠の図書室にも「特攻基地 知覧」「全滅」「憤死」など、多くの高木作品が並んでおります。この「ルソン戦記」もその中の一冊。

 第一章はルソン島へ向かう飛行機の中から始まります。戦争で家族を亡くしたと話す遺族たちとの会話、そして著者は工兵連隊の中隊長であった落合秀正氏に会い、本題へ入っていく……という内容。面談や取材、手記などといった関係者たちの生の声を集めて記したもの。十数年間の向き合った結果が、700ページ超というボリュームに表れています。

 諸々の事情で発表されなかった第二部について、あとがきで「本書の補遺、修正もしたい」と語る昭和五十九年の著者。この大作にいったいどんなものが加えられ、何を記されたのか気になるところです。

 それでは最後に紹介するのは、昭和17年に発刊された「大東亜戦史四部作」の中から「比島作戦」をご紹介いたします。

 物々しい雰囲気のこの本は、「戦争の現実を銃後国民に知らせる報道」という意味合いが込められたものということで、序文を書いたのも陸軍の報道部長。

 年代からお察しいただけるかもしれませんが、前述したフィリピンでの戦いと二冊の本が語っているのは1944~1945年の戦いの方。こちらは昭和17年……1942年に発刊された本なので、ここでの「フィリピンの戦い」とは1941年~1942年に行った方、ということになりますね。フィリピンからすればたまったもんではありません。ちなみにこの二つの戦いはまた意味の異なるものなので、お調べの際にはこんがらがってしまうかもしれませんが頑張ってください。

 この本のタイトルとなる「比島作戦」というのは実際にあった作戦名で、正式には「フィリピン作戦」、M作戦とも呼ばれています。

 報道のために出された本なので目線や見方に対して疑問を抱くことはあるでしょう。しかし、これはまぎれもなく当時の人々が「国民に知らせる」という意図で作ったもの。真偽を求めて読むというよりは、「そういう風に伝えたのか」という目線で見たとき、これ以上ないほどの「戦争と報道」の良い学びになるのではないかと思います。

 今回は手記、ドキュメント、当時の報道という異なる側面からの紹介をさせていただきました。どの本から入っても、フィリピンで起こった戦争について知り、考えることができるでしょう。そこからまた別の本、次はこの本、と手を広げていくことで、個々の心の中にフィリピンの戦いに対する想いや思考が生まれていくのではないでしょうか。

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画像4: 永遠の図書室通信 第24話「戦地・フィリピン」

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