早いものでこの永遠の図書室通信も第20話を迎えることができました。これも一重に防衛日報社様とお読みいただいている皆さまのおかげでございます。誠にありがとうございます。

 さて、20回目ということで今回は番外編。少し趣向を変えまして、「漫画でみる昭和史」について触れてみたく思います。

すばらしき、漫画の世界

 漫画って凄いです。言ってしまえば静止画であるのに、コマ割りやストーリー、登場人物に動きを付けることにより読者に躍動感をもたらし、圧倒的な「画」と「話」が組み合わさることにより、漫画を読んだ者は時に泣き、時に笑い、時に物語は胸に刻まれ続けるのです。ああ、素晴らしき哉、漫画。さすがにこれ以上語るとなんのコラムかわからなくなるので、このあたりで留めておきます。

 さて、作品というのは世情や文化・進化を映すものでもあります(ジャンルにもよりますが)。
昭和に生まれた漫画を読むと、その時代の背景を画で見ることができたり、戦争を体験した作者が、自身の記録を書き記したノンフィクションものなど、作品を通して昭和というものに触れることが可能になります。では少し棚を見ていきましょうか。

 まずはこちら。

「総員玉砕せよ!」(著:水木しげる)

 水木しげる先生といえば怪談や妖怪のイメージが強い作家さんですが、戦記物もいくつか書いてらっしゃいます。この本は水木先生がニューブリテン島での出来事や軍隊での生活、戦争の悲惨さを書き切った1冊。
 ひとりの青年の目がとらえた惨状は、そのセリフ運び、その圧倒的画力によって余すところなく伝えられ、読者はただただその戦火を眺めて、ぼんやりとして、そのあと心臓をつかまれたような気持ちになって、そうして読後の感情がやってくるのだと思います。
年代問わず読んでほしい本のひとつです。

 では次に紹介するのがこちら。

「別冊 1億人の昭和史 昭和マンガ史 楽天・一平からがきデカまで」(毎日新聞社)

 まさしく「昭和マンガ史」という言葉が相応しい1冊。画風や表現方法、魅せ方など「漫画」という作品媒体の歴史がぎゅぎゅっと詰まっており、1ページ1ページに目を奪われます。
 基本的に関東大震災に始まり、モガの歩く時代、満州事変や戦時中、復興、行動経済成長、公害など、年代と出来事に分けてその時代の作品が紹介されています。「漫画は風俗を映す鏡」という言葉が本の中にありましたが、まさしくその通り。

 例えば「伝単・決戦紙芝居」といったプロパガンダな作品もあります。見るとわかるのですが、どれも色彩が丁寧で画力が高い。そういう時代で、それをすることでお金を得ていたとはいえプロパガンダに才能が利用されたというのは、なんともやるせない話です。
 そうそう、風刺画もたくさん掲載されていますね。絵と文がそこにあれば、思想の表現も思いのまま……プロパガンダも風刺画も、数多く見ていると様々な思想や情報、その背景などをダイレクトに受け取ってしまい、いささか疲れてしまいますね。ですが、当時の作品からみる昭和、という意味では1枚1枚重要な歴史を表現する作品です。どれもブラックだなあ………
 描写されているものは政治や戦争だけではなく、戦時下における市民の生活や服装・思考なども読み取ることができます。

 もちろん、それだけが漫画ではありません。読んでいて「楽しい」と思える漫画も続々と紹介されていきます。楳図かずお先生や横山光輝先生、永井豪先生、漫画の神様手塚治虫先生、といった数々の名作家による漫画は見ているだけで心を擽るといいますか、ワクワクしてきますね。
 皆さんもこのあたりの年代の作家さんの作品に熱を貰ったり、衝撃を受けた経験があるのではないでしょうか。ちなみに私は手塚治虫先生だったらBJやMWに学生時代出会い衝撃を受け、永井豪先生のデビルマンやバイオレンスジャックを貪るように読みふけった思い出があります。

 次に紹介するのはこちら。

「漫画にみる戦争と平和90年」(著 石子順)

 こちらの本はいわば「漫画が描いた戦争」。二部構成になっており、前半は戦前、戦火の燻る中で生まれた風刺画や1コマ漫画、ストーリー漫画のはしりなどを紹介。後半は戦後、戦争を扱った漫画について紹介している1冊です。

 全333ページの中で漫画の在り方が徐々に変化していく様子を見る事ができるのは勿論のこと、ひと作品ごとに著者による丁寧な解説が入り、その作品が描かれた背景や作者について、作品についてなどの詳細な情報も得ることができます。

 戦争ムードを高めるために描かれた漫画や利用された漫画を見ているとどうしようもなく胸が痛くなってしまうのですが、ページを捲るたびに「それだけではない」漫画史が顔を覗かせます。ひっそりと画面に忍ばせた反戦の思いに始まり、かつて画面の中で美化されていた「戦争」を、経験者が己の経験と共に真実を語り、そこに美など無く、あるのは惨劇と哀しみなのだと描く。この本はまさに、戦前から戦後までを追いかけることのできる1冊なのです。

 余談ですがこの中で収録されている「七月七日に」(著 大島弓子)という作品が大変気になりますね……オチまで書いてあるのですが、取り上げられている1ページの繊細できれいなこと。この雰囲気でこの物語、これは一度読みたい……と思う作品に出会いました。

 テーマ性として気になるものは「禁じられた戦史1-陸軍41軍」(作 千田夏光 画 池内誠一)、「おろち-戦闘」(楳図かずお)あたりでしょうか。
 この2作品、戦中におけるある問題を取り上げて描いています。言ってしまうと「人肉食い」についてのお話なのですが、戦地で食べるものの無い飢餓状態のなか、どのような気持ちでそれを食べたのか。戦争が終わった後、その事実は食した人の心にどのような影をもたらすのか。怖いことだけれど、きっと知らなくてはいけないテーマなのかもしれません。

 ちなみに他にも「のらくろ」や軍隊生活を描いた漫画や、60年代の「週刊少年サンデー」などもあります。なんとこのサンデー、「名犬大懸賞」というページがありまして、今で言う「当選した方〇名に〇〇をプレゼント!」の文脈でスピッツか柴犬が景品……景犬になっていた号のようです。すごい時代だ……

 歴史が紡がれてきたのは、ひとえに人間が脈々と血を継いできたから、言葉や記憶を語り継いできたから……そういった理由のひとつが、こうした世情を映した「作品」が残ってきたから、なのだと思います。
 その人が亡くなったとしても、その人の遺した作品は永劫残っていくわけです。それって、すごく不思議で、素敵なことではないでしょうか。

アクセス

画像4: 永遠の図書室通信 第20話「漫画でみる昭和史」

永遠の図書室
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営業時間:13時~16時(土日祝のみ17時まで) 月火定休日
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