「責任」とはなんなのでしょうか。

 できれば負いたくないのが人の心というものですが、人にはそれぞれ置かれている状況や心情、立場というものがあります。自分がそれを負えば他の人間が助かる……という時や、負わなければならないほど高い場所にいる時、他にも様々な要因で人は責任を持ち、また負うものであり、たまに負わされるものです。

終戦後の「責任」を考える

 さて、いきなり冒頭から重苦しく、今まさに責任をもって何かに取り組んでいる皆さんにおかれましては、この文章を見て胃を痛めてやしないか不安です。しかし、いきなり私がこうして語りだしたのは理由があるのです。

 というのも、今回のテーマは「終戦・戦後・戦争責任・敗戦分析」。

 戦争は「終わったらそこで全部終了」というわけではありません。今回はこの4つのテーマを見つつ本を紹介していくことにしましょう。

 そもそも戦争が終わったあとは何をするのか?という話ですね。具体的に言えば賠償問題や治安の回復、経済の復興や友好の回復などでしょうか。こういうもののことを「戦後処理」と呼びます。どれも欠かせない大事なことですからね。

 ここでご紹介したいのがこちらの本。

「臥薪嘗胆 幾星霜 日本の戦後のあゆみ」(著:重城良造)

 「がしんしょうたん・いくせいそう」と読みます。中国の故事成語でして、意味は「目的を果たすために苦心・努力すること」とあります。元になったお話の「目的」は、言ってしまえば復讐。敵を討つために苦労を重ねるという、背景を知るといささか物騒な言葉です。しかしこの言葉、明治においてかなり使われたのだそう。

 一丸となって臥薪嘗胆を唱えるさまは勇ましくはありますが、同時に戦争が一斉にそちらを向かせていたと思うと背筋にいやな汗を感じますね。

 さてそんなスローガンであるような、同時におまじないのようであり、呪いでもあるような(まじないものろいも漢字で書けば同じ『呪い』ですが)言葉を背負ったこの本。

 この本はタイトルにもあるように、戦後の日本がどういう道を歩いて行ったかがわかりやすく書き記してあります。カテゴリーが細かく分かれているので、目次を見るだけでも「戦後」という世界に起こったさまざまな事柄を見渡すことができます。

 闇市や人間宣言、オリンピックや三島由紀夫の割腹自決まで、かなり広く「戦後」を見渡した一冊になっています。

 次に紹介するのはこちら。

「あの戦争は何だったのか 大人のための歴史教科書」(著:保阪正康)

 「平和を考えるならば、戦争を知らなければ語れないだろう」と書き記す著者による、まさに教科書のような一冊。まずは知ること、考えることを最優先と思っている店番なので、このスタンスは個人的にありがたく思います。この本では旧日本軍の構造から考え、職業軍人について、徴兵令について記し、開戦から敗戦、戦後の日本までについて書かれています。なんといっても文章がするっと頭に入ってくるので読みやすい。図や写真、基礎知識もしっかり掲載されているので、視覚的なわかりやすさがあるのもポイントですね。

 ちなみに開戦~敗戦までの項目を読むと、当たり前と言えば当たり前ですが、「人物棚」において紹介した皆さんの名前が出てきます。歴史を知り人を知るか、人を知り歴史を知るのが先か。それはおそらく人によるのだと思うのですが、歴史→人→歴史、と間に人を知ることを挟むと、そのあとに学ぶ歴史の解像度がぐっと上がることは確かです。「ああ、あの人か……」とイメージしやすくなりますからね。ぜひ読んでほしい一冊です。

 紹介した2冊はどちらも全体的に日本の動きを見渡した本なのですが、ここで冒頭にも書きました、「責任」の話に戻りたいと思います。

 戦後においての「責任」について調べると、「戦時においてとった行動に対してとるべき責任のこと。」とWikipediaに書かれています。

 ちなみにこの責任、どんな種類があるかというと、例えば国際責任、国内責任、法律的、政治的責任など様々な責任の形があります。

 で、中でも開戦責任・戦争遂行責任・終戦責任・敗戦責任の項目がありまして、このへんは「戦争犯罪」と混ざりがちです。このあたりはかなり複雑な所があるので、わかりにくいポイントではあるのですが……「戦争責任」は広く責任について見ている、「戦争犯罪」はポイントに注目して見ている……といったところでしょうか。

 奇しくも先ほどと同じような流れになってしまいましたが、「罪が先か責任が先か」みたいな話ですね。罪を犯したから責任を取るのか、責任を持つものであったからこその罪なのか。難しいところです。

 私の脳のキャパシティ的にちょっと限界があるので諸々省かせていただきますが、ともあれこの「罪」に対して裁判が起こりました。それが極東国際軍事裁判ーーーー東京裁判とも呼ばれるものです。

 その「罪」はなんぞや、と思われるかもしれませんが、主に3つに分けられます。

a項-平和に対する罪
すなわち、侵略戦争あるいは国際条約、協定、誓約に違反する戦争の計画、準備、開始、あるいは遂行、またこれらの各行為のいずれかの達成を目的とする共通の計画あるいは共同謀議への関与。
b項-戦争犯罪
すなわち、戦争の法規または慣例の違反。この違反は、占領地所属あるいは占領地内の一般人民の殺害、虐待、奴隷労働その他の目的のための移送、俘虜または海上における人民の殺害あるいは虐待、人質の殺害、公私の財産の略奪、都市町村の恣意的な破壊または軍事的必要により正当化されない荒廃化を含む。ただし、これらは限定されない。

c項-人道に対する罪
すなわち、犯行地の国内法の違反であると否とを問わず、裁判所の管轄に属する犯罪の遂行として、あるいはこれに関連して行われた、戦争前あるいは戦争中にすべての一般人民に対して行われた殺害、せん滅、奴隷化、移送及びその他の非人道的行為、もしくは政治的、人種的または宗教的理由にもとづく迫害行為。

(ウィキペディアより抜粋)

 ABCは罪の区分であって、一番重いのがどれ、という話ではないです。

 この東京裁判で裁かれたのは政府・軍部の指導者ら。「指導」という点でピンと来たかもしれませんが、彼らは上記で言うAにあたる……すなわち、A級戦犯となります。連合国による裁判により、死刑になる者・終身刑になる者がいました。前々回取り上げた東條英機もそのひとりです。

 余談ですがA級戦犯の人たちは死後靖国神社に「祀られ」ました。戦争で命を落とした人々と上記の人々は合祀されたのですが、そのあたりは今でも議論の元となっています。「靖国問題」というやつですね。第3話でも少しだけ取り扱わせていただきました。

 では東京裁判と責任と罪について触れたところで、関連する書籍を見てみましょう。まずはこちら、

「実録 東京裁判と太平洋戦争」(著 檜山良昭)

 タイトル通り第1章では東京裁判を、第2章では満州事変から太平洋戦争までを扱っています。構成や造りはさながら雑誌のよう。写真や資料もふんだんにあるので、気負わずに東京裁判について知識を深められそうです。東條の自殺未遂事件についても触れられており、なんと当時の写真まであります。その隣には服毒自殺を行った近衛の写真も。このふたりの写真を並べるというのは、なんというか色々考えてしまいますね。

 それと東條を調べているときにたまに出てきた、東京裁判中に東條の頭をぺちこんと叩く人の詳細もありました。最初見たとき「こんなコントみたいなくだりがあったの?コラ画像では?いやでもGIFだし……」と思っていたのですが、実際にあったみたいですね。叩いた人の名前は大川周明、思想家です。東京裁判中様子のおかしかった彼は精神鑑定を受け、裁判を免訴されたのだそうな。ところがこの「おかしかった」というのも、実は演技なのでは?という説もあり、真実は闇の中です。
ちなみに石原莞爾に関しても触れられており、該当ページでは相変わらずの食えなさを発揮していました。

 次に紹介するのは、

「東京裁判と東條英機」(編:上法快男)

 店番、東條英機の話をしすぎでは?と思われるかもしれませんが、そんなことはありません。東條英機がどこにでもいるだけです。

 この本は「編」と書いてあるのでお察しいただけるかもしれませんが、昭和49年に東條英機についてクローズアップした小冊子が元となっています。

 「あの戦争の素因とかその時代の指導者の行動基準となった精神の基本を知ることが必要であると考えるならば、その最後の代表者であった東條英機の分析をしなければならないという見地に立たざるを得ない」(まえがきより)

 本書では東條裁判の本質から判決、そして人間としての東條英機の姿を記しています。「人間東條英機」という項目では、様々な人の証言から東條という人間の輪郭を追っていきます。もちろん証言なので言葉も思いも三者三葉。それでも「東條さんは」と語るその言葉たちの中に、不思議と温かみを感じます。人間が人間を思って語るときに生じる温度です。いいですね。その中においての山田玉哉(東條の甥)のエピソードは、若者!と言う感じの甥が真面目な叔父に叱られたといった内容なのですが、もう面白味の塊です。ホームドラマの一幕です。まあ場所は総理官邸なのですが………

 なお読者の皆さまにおかれましては「またか」と思うことがあると思います。私も「またか」と思いました。そうです、この本でも「東條批判の人々」というカテゴリに石原莞爾がいます。東條(の話題)あるところに石原(の話題)あり、と言った感じですね。逆も然り。

 東京裁判について取り上げるならば、「東京裁判」(著:児島襄)も併せてどうぞ。多くの取材、資料から練り上げ、児島襄という作家の手により整えられた一冊は、東京裁判という複雑な一連の出来事をわかりやすく描いており、裁判について知るにはうってつけの一冊と言えるでしょう。

 この平和な世が続く限り、「戦後」は続くのでしょう。この瞬間がいつか「戦前」にならないようにするには、まずは戦争とはどんなものか、どんなことがあったかを知る事。知れば知るほど「あれはもう絶対にやってはいけない」と思うようになりますからね。

 とはいえ、知るべきことが多いのもまた事実。どこから手を付けたらいいんだろうという時に、ぜひコラムを参考にしていただけたら私もうれしく思います。それではまた来週お会いしましょう。ごきげんよう。

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画像5: 永遠の図書室通信 第15話「終戦・戦後・戦争責任・敗戦分析」

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