ごきげんよう、「永遠の図書室」店番でございます。

 前回お伝えした通り、今回のテーマはずばり「人物」。数回続いた人物棚の紹介も今日がラストになります。次回からはまた別のテーマの棚を取り扱っていきますので、どうぞよろしくお願いします。

語られる歴史上の人物たち

 さてこの人物棚、なんと全部で103冊あります。よく見ると坂本龍馬や足利尊氏もいるではありませんか。これは先週までのやり方では収集が付かないぞ……? ということで、今回は本の紹介をメインに書いていこうと思います。まずは前回までの人物に絡めた本から紹介していくこととしましょう。

 それでは最初の1冊がこちら。

「東條メモ ーかくて天皇は救われたー」(著:塩原時三郎)

 写真からも劣化具合がおわかりになると思うのですが、持っているだけで崩れ落ちそうな本です。この本が発行されたのは昭和27年8月8日。昭和27年といえばサンフランシスコ平和条約が交わされ、戦争が終結した年でもあります。「終戦」にも諸説あり、昭和20年8月15日の玉音放送、昭和20年9月2日の降伏文書調印、昭和27年の平和条約の3つがそれに値します。この本が出されたのもまた、「終戦」の年でありました。

 前回の記事をご覧になった方もそうでない方もご存じかと思われますが、東條英機といえばメモ魔。いかなる時にもメモを取り、きっちりと仕分けていた几帳面な人です。

 ところがどうやら、東京裁判中、巣鴨在監中もメモを取っていたそうな。その多くは当時すでに消えてしまったようなのですが、そんな中で著者が入手したものが東條英機の訊問調書。この本はそれを元に検事と東條の会話を記し、第一部において責任について、第二部ではアジアの解放について触れております。じっくり読み解きたい1冊ですね。

 そしてタイトルから少し構えてしまいますが、著者は東條英機全肯定、というわけではありません。

「考え方はどんなによかったとしても、現実に行われた『やり方』は何といっても万死に値する」(はしがきより)

 しかし野村海軍大将の「東條は人間としては悪い奴ではない、オネスト(正直)な男だつた」という言葉には「正しく然り」と述べています。

 そんな視点を持った著者による一冊となっております。「どちらでもない立ち位置である」というだけで、すでに信頼性を感じてしまう店番でございます。

 歴史は人と人とのつながり、とは毎回言っていることですが、ふと横を見ると東條と関わりのあった人物の本が見受けられました。

 では次に紹介するのがこちら、

画像: 語られる歴史上の人物たち

「静かなる楯 米内光政」(上下巻)著:高田万亀子

 米内光政は東條と対立した人の一人ですね。陸軍と海軍というだけではなく、性質や辿った道がとにかく正反対のふたり。米内はめんどくさがり、酒豪、女性にモテる。そしてなんといっても包容力があり、信頼されるタイプの人だったそうです。

 当時部下だった五十六からは「頭はそれほどでもないが、肝っ玉が据わってるから安心」と称されたそうな。

 そんな米内について書かれた「静かなる楯」は彼の生い立ちからその生涯を終えるまでを上下巻に分け書き綴ったもの。巻末には米内本人が書いた「露國革命の倫理観」も附録として記されています。今まで取り上げた人たちの中は皆別の方向性で一人ひとり異彩を放っていましたが、米内もまた人々に評価された星のひとつだったのでしょう。

 余談ですがそんな米内の親友ともいえる人物が、あの山本五十六。なんと海軍砲術学校の教官時代、同室だったのだとか………仲良くなったのも、暇つぶしに短剣投げ競争を始めてからなのだとか。暇つぶしに……短剣を……?なかなかファンキーな一面もありますね……

 次に紹介するのはこちら。以前紹介した乃木大将こと乃木希典と東郷平八郎について書かれた、

「乃木と東郷」(著:戸川幸夫)。

 私がこの本を選んだ理由は二つ。一つは以前乃木大将を取り上げたとき、とても好印象を持ったからである、ということ。そしてもうひとつは著者の二人を見つめるスタイルです。

「執筆に当たって私が最も戒心したのは、できうるかぎりに両将を傷つけることのないよう、同時にひいきの引きたおしにならないように、両将の事績に忠実に従おうということでした。」(まえがきより)

 歴史を考えること難しいことでありますが、とやかく言ったり批判するのは簡単なことです。もちろん白黒はっきりさせたい時は断じることも時には必要なんだと思うのです…………が、私はどうも断じるのは不得手と言いますか。なので戸川さんの前書きを見て、私もこういう風に誠実に歴史に向き合いたいな……と思ったのです。

 この二人もまた陸軍と海軍であり、対照的なふたり。しかし先ほどとは違い、この二人は「軍神」になった者どうしという共通点があります。この本はあくまでふたりを「人」として見つめ、描き切った一冊になっています。そこもまた好ましい。

 次に紹介するのは、

「烈将 山口多門」(著者:生出寿)

 多聞丸こと山口多聞はかなり知名度が高いのではないでしょうか。海軍の提督であった彼は飛竜と共にその命を海に散らした人物です。山本五十六を尊敬していた彼でしたが、キレ者かつ「山口ひとりを喪うことは大艦数隻を失う以上の損失」と評されるほどの人物。アメリカ太平洋司令官長・チェスター・ニミッツも、五十六の撃墜作戦を計画した際「山本を殺しても有能な後継者が出てきたら困る」と悩んでいた時、部下の一人が「山口多聞がいるが、彼はもうミッドウェーで死んでいるので問題ない」と発言した……という話もあります。尊敬する五十六に並ぶほどの有能さを異国にまで轟かせた人物ですね。ちなみにかなりの大食いで、おかわりは日常茶飯事だったのだとか。飯だけに。

 この本はそんな多聞について取材・調査し、その生涯を丁寧に書き綴ったドキュメントとなっています。生出さんといえば、昭和史について資料を探す時に必ず本棚で姿を見せる作家さんなのではないでしょうか。ちなみに当館にも、この本の他にもいくつか生出さんの書いた本があります。著者自体海軍軍人だったのもあり、この「烈将 山口多聞」もまた彼が海軍について書いた本の一冊です。

 他にも、旧皇族であり陸軍軍人、そして総理大臣になることで、初めての皇族内閣を立ち上げた人物である東久邇宮稔彦王の書いた「私の記録」、内閣総理大臣を三度務め、戦後東久邇内閣において国務大臣となるも、A級戦犯になってしまった近衛文麿のことを記した「公爵 近衛文麿」(著:立野信之)、「近衛文麿『黙』して語らず」(著:鳥居民)などなど。

 また、 軍人や提督ごとにまとめて紹介している本もありますので、この時期の人物たちについてさらに知りたいと言う方は「昭和史の軍人たち」(著:秦郁彦)や、「将軍提督人物史伝」(著:楳本捨三)もお勧めいたします。

 まだまだ他にも人物棚には大勢の人がいます。名を残した人物も、名もなき民も、老若男女関係なく、すべての人間によってこの歴史は紡がれているのです。今を生きる私たちもそのひとつ。いうなれば大河の一滴なのです。

 そんな個々の名に目を向けるということは、昭和と令和、時を超えた人と人との文章を通した語らいであり、交流なのだと思います。

 さて、紹介してきた人たちの中で皆様が気になった人はいましたか?昭和を生きた人物たちに少しでも目を向けてくれたのなら、私としても嬉しい限りでございます。

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画像5: 永遠の図書室通信 第14話「人物」

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