ごきげんよう、「永遠の図書室」店番でございます。

 辻政信石原莞爾と続き今回も人物棚からのご紹介となります。辻は石原を崇拝し、少年時代の石原は今回取り上げる人物の元に遊びに行き、ご飯を食べに行ったことがあったのだとか。歴史上の人物は思わぬところで繋がるものです。

 というわけで今回ご紹介するのは人物棚より「乃木希典(のぎ・まれすけ)」です。

「軍神」とよばれた男

出典:ウィキメディア・コモンズ (Wikimedia Commons)

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 辻、石原と続き、取り上げる人物の活躍の時代がどんどん遡っていきます。というのも彼が生まれたのは嘉衛二年。明治という近代史の幕開けより前に、のちに軍神と呼ばれる少年は誕生しました。

 彼は陸軍の軍人として生涯を駆け抜け、西南戦争に参加し、日露戦争において旅順を攻略するという大きな成果をあげその名を馳せました。

 そこだけ切り取るとまさに「軍神」と呼ぶに相応しい鮮やかさがありますが、西南戦争において連隊旗を失い、深く傷つき、戦争中に死地を求めるようになったと言います。しかし、死に場所を強く求める人ほど望みから遠ざかるものです。西南戦争において彼は生還し、身も心も傷ついたまま終結に至りました。

 日露戦争で軍功をあげた時も、多くの将兵を戦死させたことを深く悔やんでおり、民衆からの英雄視や歓迎をひどく恐れていたのだとか。日露戦争終結後、明治天皇に「自分の死をもって償いたい」と泣き、詫びたのだそうです。それに対して明治天皇は「朕が生きているうちは死んではならない」と声をかけました。その一言が軍神を人として繋ぎとめたのだと、勝手に想像してしまいます。

『ニーヴァ』誌に掲載された乃木の挿絵(出典:ウィキメディア・コモンズ (Wikimedia Commons)

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 しかし1912年、そう言葉をかけてくれた明治天皇も崩御され、ついに殉死という結末を迎えます。その人を人たらしめていたものが無くなってしまう……という哀しみも、それにより選んだ散り方も、簡単に理解という言葉を使うものではないとわかってはいますが、それでも「わかる」と思ってしまいます。

 ちなみに、性格はかなりのハイカラさん。洒落たものを好み酒を呑み、男女問わずお付き合いをするという自由人……だったのですが、ドイツ留学を経て自分の中で変化があり、かなりの堅物になったそうです。しかし性格の変化があったのちも人当たりがよく、茶目っけがある面もあったのだとか。

 軍神に対して人間味がある、という言い方はなんとなく矛盾している気がするのですが、私の中では一番最適な評し方だと思います。人物棚の記事はこれを含め三回書きましたが、一番書きやすいと言いますか……歴史の人物に対して不敬じゃないかと思いつつ、「接しやすい」印象の人ですね。

 それでは本題に入ります。乃木希典棚からご紹介するのはこの二冊。

画像1: 「軍神」とよばれた男

「歴史をつくった先人たち 日本の100人 乃木希典」(発刊:ディアゴスティーニ・ジャパン)

 今回の記事を書くのに一番手助けしてくれた一冊です。大型本なので文字やコンテンツが見やすく、年表と共にエピソードを紹介してくれているのでとにかくわかりやすいのが特徴。写真や図もふんだんに使われており、見たいものの情報をぱっと認識できる。隅から隅まで読んでも、つまんで読んでも身になります。個人的に興味をひかれたのが、彼個人の人となりのわかる「ヒューマンエピソード」。そしてもうひとつが、当時の人物たちとの関わりを把握することのできる「人物相関図」。この記事の一番最初に「歴史の人物どうしは思わぬところで繋がる」という話をしましたが、まさしくその通り。視覚という面から点と点が繋がれていくさまを見ることができます。

画像2: 「軍神」とよばれた男

「【軍神】乃木希典の謎」(著:前川和彦)

 この本について語るのなら、まずはその装丁でしょう。実際に持って表紙を撫でてみるとわかるのですが、カバーの材質がざらついており、じっと見つめると横線があることがわかります。それはまるで秦織物のような趣きがあり、フォントやデザイン、そして目を惹く朱色がなんともいえぬ良さを引き出しております。表紙のメインが最前線の兵士たち、そして上に丸く囲われ、空色のグラデーションが綺麗な場所にいる乃木希典の写真というインパクトのある表紙はまさに「軍神」というものを表しているように思えるのです。

 その内容は、著者のもとにやってきたとある写真から始まります。それは「乃木希典の母親の墓が台湾にある」というもの。いったいなぜ台湾に?その謎を追うため、著者は乃木希典という人間について詳しく調べていくことになる……というのが粗筋です。

 台湾へ向かった著者の視点、そして著者が調べた「乃木希典」という一人の人間についての記録がここにあります。著者の視点があることで、「今まさに著者は乃木希典という人間をとことん調べているのだ」と文章の中に入っていけるのが特徴です。

私はあくまで人間の話をしていきたい

 人間を神と言ってしまうのは案外簡単なのです。しかし、私はあくまで人間の話をしていきたい。それは乃木さんに関わらず、これから先取り扱う人物棚の人たちすべてに言えることです。

 父と母に厳しく育てられ、左目の失明を誰にも言わず隠し続け、あらゆる戦地で苦しみ続けた、でもそれだけではけしてない人。そんな大将に想いを馳せつつ、今回は筆を置かせていただこうと思います。ごきげんよう。

アクセス

画像: 永遠の図書室通信 第10話「乃木希典」

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