ごきげんよう。「永遠の図書室」店番でございます。

 この「永遠の図書室通信」、早くも10話配信(第0話含む)と相成りました。これもひとえに私の乱文を丁寧かつ優しく受け入れてくれている防衛日報社様と読んでくださる皆さまのおかげです。ありがとうございます。

 さて前回から取り扱っているのが「人物」カテゴリー。今回のテーマである人物は、前回私を大苦戦させてくれた辻政信に満蒙についての理念を教えたといいます。その出会いによって辻政信は彼を「導師」と呼び崇拝したそうな。このエピソードだけですでに只者では無い雰囲気が漂ってきますね。というわけで今回のコーナーは「人物・石原莞爾(いしわら・かんじ)」の棚紹介となります。

カリスマ陸軍軍人「石原莞爾」

 石原莞爾は陸軍軍人であり、軍事思想家でありました。思想家としての彼が書いた本こそ、かの有名な「最終戦争論」。他にも「戦争史大観」「戦術学要綱」など、著作物が数多く存在します。性格は秀才かつ奇抜。そして上官にも言いたいことをハッキリ言う性格から、嫌っていた者も多かったそうです。しかしその一方で崇拝していた者も複数存在し、前述した辻政信も彼を崇拝していたひとりでした。

出典:ウィキメディア・コモンズ (Wikimedia Commons)

commons.wikimedia.org

 長い行事・式典をさっくりと切り上げ、ライカのカメラを愛用し、お菓子などの甘いものを食べながらの論議・勉強を好いていた……と、ここまで書くと、彼の印象が「カリスマかつ変わり者だけど親しみやすそうだ」なんて思いますね。実際、その印象もまた石原莞爾という個人の一面であるので、間違いではないのかもしれません。

 しかし彼を語るうえで欠かせない事件がふたつあります。

 ひとつは満州事変。こちらは歴史の教科書でもかなり重要視される事件ですね。1931年、関東軍が南満州鉄道の線路を爆破した事件を切っ掛けに始まった武力紛争です。当時彼は関東軍の作戦主任参謀におり、つまりは満州事変を引き起こした張本人でもあるのです。

 ふたつめに、二・二六事件。事件の概要については第2話において更新させていただきましたね。彼はこの時、反乱軍の鎮圧の先頭に立っておりました。昭和維新を眼前に見すえ、行動力の塊であった青年将校たち相手にも毅然とした態度でいたとのことです。満州事変の主謀者ではありましたが、二・二六事件の鎮圧に関しては昭和天皇も「正当」と言い、評価したそうです。

 昭和初期を語るうえで欠かせない事件の渦中に、彼の姿が在りました。

思想家の頭の中を覗いてみたい方に

 改めて本棚を見てみましょう。前述しました「戦争史大観」「最終戦争論」がありますね。前回は辻本人の書いた書籍を紹介しましたが、今回は少しアプローチを変えて「他から見た石原莞爾」と「彼の中の思想」、この二つを追っていきたいと思います。

 そこでまずは「他から見た石原莞爾」です。

画像1: 思想家の頭の中を覗いてみたい方に

「陸軍の異端児 石原莞爾 東条英機と反目した奇才の生涯」(著:小松茂朗)

 この本は石原莞爾の生涯を描いた人物伝です。タイトルにもあるように彼は東条英機と大層仲が悪く、彼に関するものを読んでいると必ずと言っていいほど東条英機が登場します。ちなみに彼のコーナーも人物棚にありますので、また別の機会に書くことにしましょう。

 この本は全八章、彼の一生を余すところなく紹介しています。少年時代の有名すぎる写生の話や東京裁判において戦争犯罪人を自ら名乗ったというエピソードまで、小松茂朗氏の目から見た石原莞爾という男の姿がそこにあります。

 今まさに石原莞爾という人物をどう言葉で表していいか迷いながら書いている私にとって、その生涯を書ききったというだけで尊敬に値しますね……。これからも人物を複数回取り扱っていくので、そういう意味でも参考にしたい一冊です。

 次は「彼の中の思想」に目を向けていきましょう。

画像2: 思想家の頭の中を覗いてみたい方に

「最終戦争論」(著:石原莞爾)

 最終戦争論は別名、「世界最終戦論」とも呼ばれています。どちらの呼び方でも正しいようなので、以下「最終戦争論」の方を採用させていただきます。今回取り扱う本のタイトルである、という点もそうなのですが、個人的に(歴史の教科書から得た概念なのかそれ以外から得た概念なのかは定かではありませんが、)こちらの呼び方の方に馴染みがあるんですよね。

 この「最終戦争論」、元は昭和15年5月29日、京都で行われた講演が切っ掛けでした。そこで石原莞爾の語った内容を大学教授が書き留めたものが書籍化されたのが「最終戦争論」でした。今で言うリライトのようなものでしょうか。その内容はと言いますと、

・戦争史の大観(決戦戦争と持久戦争、古代および中世ほか)
・最終戦争(最終戦争においての戦闘の様子など)
・世界の統一(最終戦争に参加するのはどの国か、またどの国が生き残るのか)
・昭和維新(最終戦争で東亜が勝つにはどうすればいいか)
・仏教の予言(宗教から見た見解、日蓮の予言の話)
・質疑応答

その他複数の項目で綴られた一冊となっています。ちなみに最終戦争とはハルマゲドンとも呼ばれており、今回の記事に沿った言い方をするのなら「戦争を終わらせる戦争」のことですね。昭和15年という時代はまさに、戦争へ突き進んでいた最中の年。そのタイミングでこういった講演をした姿勢の中には、平和というよりは勝利に重きを置いている印象があります。

 個人的には平和と勝利は必ずしもイコールではないと思っているのですが、なにせ時代が時代です。白か黒かという話でもない。「思想」というものについて考えることが一番難しいですね………この難しさをどうにか読み解きたいという人・思想家の頭の中を覗いてみたいという人にオススメの一冊であります。

この人物、「只者」ではない

 余談ですがもう一冊の「戦争史大観」(著:石原莞爾)を捲ってみると、序文に石原莞爾本人の言葉があります。

 「京都でお世話になった方々や希望者に『戦争史大観』を説明したい気持ちになった。年末年始のお休みで書こうとしたけれど果たせなかったので、正月に入ってから出張先の宿屋で缶詰になってやっと脱稿できた」
 「二月、(原稿を見た人から)執拗に出版を強要され、ついに屈服する」

 ざっくり書いてしまうとこういう書き出しです。私はなんとなくこのくだりが好きで、初見でちょっとだけ笑ってしまったことをここで白状いたします。

 この絶妙なおもしろさを言葉にするにはちょっと難しいのですが、書きたいものがあったけれど時期がずれたので正月から頑張るところ、一か月とちょっとでこの量を書ける速筆っぷり、そして書いた本人より読んだ人のほうが大興奮だったんだろうな、という点と、屈服という言葉から縁遠そうな彼が折れる、という状況すべて含めておもしろい。「おもしろい」という言葉は果たして適切なのかどうかわかりませんが、一番しっくりくるのが「おもしろい」だと思います。

 石原莞爾という人物は、彼についての情報を読むと案外するりと自分の中に入ってきますが、説明しようと口を開くと難しい人物であります。そこには本人の行動と共に駆け抜けてきた昭和という歴史があるから、その生涯の中に様々なものとの関わりがあったゆえに、けしてそれは易くはない。しかし不思議と飲み込みやすくはある。

 不思議な人です。やはり石原莞爾という人物、「只者」ではないです。

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画像: 永遠の図書室通信 第9話「石原莞爾」

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