こんにちは。「永遠の図書室」店番です。

 靖国神社回(第3話)で、私は「(記事のテーマに関して)そこまで知識がない」「気軽に手を出しにくい」「でも書くと誓った以上パスはできない」といった事を書きました。正直なところを言えば、靖国神社を過ぎてしまえばあとはしばらく大丈夫、などと思っていたわけです。

 しかし早くも次の「気軽に手を出しにくい」が来てしまいました。どう書けばいいんだ……と現在進行形で目をぐるぐるに回しているのですが、堂々巡りをしていても埒があきません。それに前置きが長いと読む人が飽きてしまいます。

 ………というわけで今回のテーマを発表いたします。「人物」棚より「辻政信」です。

陸軍参謀「辻政信」という人物

 さて皆さん、そもそも「辻政信」という人物をご存じでしょうか。辻政信は陸軍参謀でありました。彼が関わったノモンハン事件、マレー事件、ガダルカナル島等々の戦いにおいて参謀を務めたとされています。その指導の巧みさから「軍の神様」「作戦の神様」というあだ名付いたと言います。人柄も正義感が強く、言いたいことはすぐに言うなどはっきりした人物であり、自らの足で行動することから下士官からも人気があったようです。

出典:ウィキメディア・コモンズ (Wikimedia Commons)

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 しかし指揮系統の無視、独断での行動、自決の強要、責任逃れなど、一方で悪名高くもあり、あのGHQから「第三次世界大戦を起こしかねない男」、半藤一利氏から「悪というものが出現存在する気配にとらわれた」と評されています。

 なお戦後は姿をくらましており、その間に「潜航三千里」を書き上げ、ベストセラーとなりました。なお同時期に発刊された「十五対一」もベストテン入り。そのほかにも自ら作品を書き、作家としても名を馳せたそうです。

 その後議員になるも、「東南アジアを視察してくる」と飛び立ったのち行方不明となり、失踪扱いになりました。没年不詳というやつです。
 こうしてざっと見てみると、経歴も陸軍参謀、国外・国内潜伏、文筆家、議員、失踪と二転三転四転人生を辿っていることがわかります。思考や言葉を持つ人間であれば、他人からの評価はちょっとずつ違ってくるものですが、辻政信の場合は見事に賛否両論。きれいに意見が二分化されており、あまりその中間にある意見は見つからない印象です。かく言う私も調べれば調べるほどわからない人だなあ、などと思っております。

 話は少し変わりますが、歴史を学んでいるときに嬉しいポイントとして「当人が書いたものが現在まで残っている場合」があります。これは時代関係なく、その時代を生きた本人が自ら筆を執り、書き記した……というのはそれだけで重要かつ貴重。いつの時代も生の声に勝る情報はありませんからね。
 そしてその本人による声は、近年になればなるほど量が増え、形として残っているものが多くなります。

「十五対一」と「潜行三千里」

 ここで辻政信棚を見てみましょう。おそらく皆さん一番最初に目がいくのが、「十五対一」と「潜行三千里」ではないでしょうか。こちら二冊とも前述したものですね。「潜行三千里」は前述したとおり、国内で潜伏中に、自らの逃亡中の出来事を執筆したものです。

画像1: 「十五対一」と「潜行三千里」

 内容を一言で言うなら逃亡記といったところですが、数多の危機や困難を変装でくぐりぬけ、昭和という歴史の裏で存在した………という、なんとも冒険記めいたあらすじとなっております。このあらすぎだけに着目すると、なんとも手に取りやすさを感じます。

 また、手に取りやすい点は内容だけではありません。図書室にある「潜行三千里」は53年発刊のものなので、発売から20年以上の時を経て出されたものになります。そのため書かれた時期は昭和初期ですが、現代でも読みやすいような文章の作りになっています。

 しかし、やはり当時のものが読みたい!紙のざらつきやヤケ、当時のフォントを指先から読みたい!と言う方もいらっしゃるかと思います。

 お次に紹介する「十五対一 ビルマの死闘」はなんと初版、昭和25年に発刊された当時のものです。

画像2: 「十五対一」と「潜行三千里」

 発刊時期を見てピンと来られた方もいらっしゃるのではないでしょうか。そうです、こちらは文章が当時のまま、つまり旧仮名遣いで読み進んでいくことになります。

 旧仮名遣いは短い文章であれば頭にすいすいと入ってきますが、それが本一冊となると、通常の文章に比べて読み進むのが難しくなってきます。咀嚼に時間がかかる、とも言えますね。

 しかしそこには、現代では味わえない「昭和25年から現存している」という歴史の厚みと重み、経年の跡が存在します。本は本文だけが本ではなく、カバーや紙・フォント・デザインも含めて本。それらすべてを目から摂取した時、まるで時間を超えたような感覚になるのではないでしょうか。
内容は本人が経験したビルマ戦線での出来事を書き表したものとなっております。「死線」と言うだけあってその凄まじさは相当のものです。そんな戦場をその目で見てきた著者による記録を、貴重と言わずなんと言いましょう。思わずこちらも読むのに覚悟がいりそうな一冊です。

どの媒体から彼を知るか

 辻政信について書かれた本はいくつもあります。どの媒体から彼を知るか、彼のことを理解していくかは自由ですが、「本人」の声は他の情報とは違う、人間性や素・その思考について知ることができ、ひとりの人物として身近に情報を感じられることができるのではないでしょうか。

 しかし、そこはやはり「辻政信」。その在り方を自分の中に取り込んだとき、なかなかうまくは飲み干せないでしょう。いくら咀嚼してもわからなかったり、舌や食道が焼け爛れてしまったり、胸やけをおこしたり、胃もたれするかもしれません。それでも、そうして自分(の思考で)消化した瞬間。彼はようやくひとりの「歴史上の人物」として語ることができるのかもしれません。

 現在咀嚼中の私にとって、きっと「辻政信」とは、そういう印象の人です。

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画像: 永遠の図書室通信 第8話「辻政信」

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